最近、高速道路でいかにも高級セダンを見かけることが多くなった。テスラである。幾分流線形を帯びたボディにT字型のロゴを入れたモデルSがとても静かに、そして優雅に私の車を追い越していく。それにしても1000万円以上もする車を持っている人たちって凄いなーと思う。
テスラが米カリフォルニア州で2003年に操業した時分には、現在のCEOイーロン・マスク氏は単なる投資家であったが、その5年後に最高経営責任者(CEO)に就任、高級セダン「モデルS」で当時先駆けであったEV市場を切り開いた。2017年には小型車「モデル3」で量販車市場にも参入しはじめ、2020年現在は、アメリカと中国に工場を保有し、EVの累計生産台数も100万台を突破したところである。売上高は約2兆6千億円で、トヨタ自動車の30兆円にはほど遠いが、いま、テスラに大きな変化が起きている。この一年で株価が6倍となり、今年7月1日には時価総額が約22兆2700億円に達し、トヨタ自動車を抜いて世界トップとなったのだ。 生産台数もようやく100万台になったばかり、なおかつ、経理をかじった人なら一度は目にするPBR(株価÷1株当たり純資産、または時価総額÷純資産)が約30倍と桁違いに高い数字であるにもかかわらず、一介の後手参入企業が一躍時価総額トップに躍り出たのか?という疑問が湧く。同様なことは過去1990年代後半にマイクロソフトの時価総額が純資産を大きく上回ったことがあったが、今まさにそれが起きた感じである。
個人的には3つの理由があると思う。
1つはテスラの自動運転において圧倒的なオートパイロットソフト「FSD」の存在であり、1秒間に144兆回もの演算能力を持つこの車載コンピュータは、2019年以降すべての車に標準搭載されている。 テスラは車を購入した後でも定期的なソフトの更新を行うことによって常に収入を得るビジネスモデルを構築している。 もう一つはかつてのビル・ゲイツ本人の持つ頭脳に対する無形固定資産的な価値が、現在のテスラCEOのイーロン・マスク氏にも当てはめられるために株価が押しあがっていることだ。市場はイーロン・マスク氏のカリスマ性にテスラの将来を期待しているところがあると思う。最後は電気自動車に特化し気候変動や省エネルギーに企業として取り組むテスラに対し、投資家たちがESG銘柄として積極的に投資をし続けていることだと思う。 時価総額を上げていると思われるこの3つの要素を見ていると、テスラは自動車メーカーというよりアマゾンやグーグル同様のIT企業のようにも見えてくる(少なくともカイゼンなどコストを徹底的に抑えて利益を確保する他の自動車メーカーと異なり、自動運転ソフトによる絶大な付加価値創出をビジネスモデルに取り入れた異色の自動車メーカーであることは事実であろうと思う)。
一方でテスラは2018年大きなガバナンス問題に直面したことがあった。 その年の8月にイーロン・マスク氏が「1株420ドルで株式の非公開化を検討している。資金も確保した」とツイッターに書き込んだために、株価が大きく動いたが、その後計画を撤回した。結果、米証券取引委員会(SEC)から訴追を受け、当時会長職であったイーロン・マスク氏は会長職を退かされ、罰金を支払うことで和解するはめに陥ったことを覚えていらっしゃる方々も多いと思う。その後テスラはガバナンス機能を充実させた。現在の投資家たちは、イーロン・マスク氏の功績と、自動運転機能を搭載する電気自動車の量産の成功を、より環境に優しく(Environment)、運転者に優しく(Social)、経営陣のガバナンス(Governance)もしっかりとしていることを高く評価し、テスラへの投資をおこなっているのであろう。
テスラは独自のショールームも一切持たず店舗はほとんどがショッピングセンターの中にあり、TVやネットの広告も流さない。 そういった取り組みもIT企業や家電メーカーに近い感じがする。 テスラを見ていると、これからの企業が社会に対し、何をしていけばよいのかを示唆しているようで新聞やネットで記事を見るのが今はとても楽しい。
パンチョス萩原