「もしもし」
「もしもし、●●県警の●●と申しますが」
「どのようなご用件でしょうか?」
「実は、窃盗犯があなたが家に保管している箪笥(たんす)貯金の一部を偽(にせ)札にすり替えたという情報を入手しました。偽札はすべて刷られている番号の最後が「4」の一万円札です。これから係員が犯人がすり替えた偽札をお宅に取りに伺いますので用意しておいてください」
近頃流行りだした新種の特殊詐欺である、と、NHKニュースの「ストップ!詐欺被害。私はだまされない」のコーナーで報じていた。この例では、騙されてしまった方は、最後の番号が「4」の一万円札を箪笥貯金の中から90枚見つけ、警察を名乗り家に出向いてきた人間に手渡すことで被害にあってしまったそうだ。他人事ではなく、本当にこの手の詐欺には気を付けていかなければならないが、よくよく落ち着いて考えてみれば、窃盗犯が箪笥にしまってある現金を見つけたあと、「4」の番号の一万円札だけを偽札にすり替えるような手間をかけるだろうか?間違いなくお金を全て盗んでいくに決まっている。仮に百歩譲って、犯人が偽札に取り換えたとしよう。その場合、一枚ごとに刷られている記番号(アルファベット1~2文字+6桁の数字+アルファベット1文字、例えば「P789647L」や「ZY888666A」など)は全て同じはずだ(でなければ違う記番号で偽札を一枚一枚印刷しなければならず、手間もコストもかかる)。そうなれば、「4」の数字がついている一万円札が偽札だと信じて一生懸命集中して見つけていれば、さすがに同じ番号が何枚も出てくるので、「これは本当に偽札だ」となるが、実際のお札は同じ記番号が一つもないので、「これは怪しい」となるはずだが…。そもそも犯人にしてみたら、箪笥貯金の中の一万円をすり替えるよりも、そのまま偽札を使えば良いのではないか…、と、ツッコミどころが満載の手口ではある。
残念ながら、特殊詐欺の被害は後を絶たないが、銀行に預けても利息がほとんど付かないこともあって、自宅にいわゆる箪笥貯金をしていらっしゃる方々も本当に多いようである。ちなみに箪笥貯金は、英語で、”under the mattress (アンダー・ザ・マットレス)という。外国では隠す場所が違うのだ。
実際にこうした箪笥貯金として家に眠っているお金、財布に入っているお金、会社の金庫にしまってあるお金など全部集めた「現金」は日本国内にいくらあるのか? これには日本銀行のHPがわかりやすく教えてくれる。日本国内でどのように現金が流れているのかは、ホームメニューから「統計」を選んで、「資金循環」→「資金循環統計」のデータを見つければよい。しかし、単刀直入に「現金」として流通している量を知りたければ、「教えて!にちぎん」のQ&Aコーナーで次のような回答を見つけた。
Q:「日本で流通しているお札は全部でどれくらいありますか?」
A:「2019年(令和元年)の大晦日、一般家庭や企業、金融機関などで年越しした銀行券(お札)の残高は、合計で112.7兆円(枚数では173.1億枚)でした。これを積み重ねると、約1,731km(富士山の約458倍の高さ)に達します。また、横に並べた場合には、約269万km(地球の約67周分、月までの距離の約7倍に相当)となります。」(出典:https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/index.htm/)
豆知識も交えた回答となっているが、例え話が少し難しくてイメージが湧きづらいのは私だけであろうか。いずれにしても、この日本国内のどこかに113兆円にもおよぶ「現金」があるということはわかった。非現実的ではあるが、仮の話で、173億枚もある紙幣がすべて一万円札だとして、それも国民一人一人が持っていることを想像した場合、140枚ずつ持っている計算になるので、相当「現金」が出回っている感じがする。ちなみにそんな「現金」は私の家のどこをひっくり返しても出てこない。
今日は「現金」の話を書かせて頂いたが、今、このコラムを読んでくださっている方々の中には、毎日「現金」だけをお使いではなく、クレジットカードやスマホの電子マネーアプリでモノを買ったり、公共料金などの支払いをなさっている方もいらっしゃると思う。私の場合は、数枚のクレジットカードと、PASMOやペイペイなどのプリペイド型の電子マネーで決済をする方が「現金」を使うよりも多くなった。日銀では「決済動向」という統計も毎月公表しており、今日現在で最新のデータは2020年5月度の結果がアップされている。その中で電子マネーの決済状況を見てみると、2019年6月から2020年3月までは月当たり5億件を超える決済件数(金額にして4656億円~5776億円)で推移していたが、4月と5月は新型コロナの影響で4億件(4490億円~4814億円)となっている。単純に平均値を計算してみると、一回の決済金額は1100~1200円程度であることがわかる。多くの方々がコンビニや飲食店などの身近なところで気軽に電子マネーで決済していることが浮き彫りになっている。
今後さらに、スマホからLINE Pay、楽天Pay、d払い、Au Pay、ペイペイ…などを利用したバーコード・QRコード決済や、Apple Watchなどの腕時計型携帯端末を利用した決済などが、どんどん加速していくこととなるだろうと思う。「現金」を使わなくても済む世の中になってきて、生活が便利になってきたことは確かだ。これは、SDGs17の目標のうち、9番目の技術とイノベーションで人々の生活を豊かにしていこうという目標に沿っている。
さて、これから先、人工知能もスマホに搭載されて、コンビニで買うものまでアドバイスをしてくれる日も来るのだろうか?
パンチョス萩原