放射平衡を取り戻そう 【SDGs 地球温暖化】

   昭和レトロな喫茶店はコーヒーを落ち着いて飲めるので大好きだ。よく足を運んだのはのは、神保町の「神田伯剌西爾(ぶらじる)」や「ラドリオ」、神田の「CHOPIN(ショパン)」、上野の「丘」や「王城」、台東区日本堤の「カフェ・バッハ」などである。いつの間にか、人形町の「RON(ロン)」は残念ながら営業をやめてしまった。スタバもタリーズも良いが、東京にも、まだまだ昭和に創業した古き良き時代の喫茶店は山ほど残っているので訪れてみてはいかがだろうか?

   これらの昭和レトロ喫茶店のマスターは、見ていると必ずといってよいほど銅製のコーヒーサーバーで一杯ずつ丁寧にコーヒーをドリップしている。決してガラスや陶器のポットは使わない。これは、銅製のサーバーが一番お湯が早く沸くためで、言い換えれば銅の熱伝導率がどの素材より高いのだ。熱伝導率を数値で見ると、銅が398W/(m・K) (ワット毎メートル毎ケルビン)で、アルミは237、鉄は80、ステンレスは27、耐熱ガラスは1.1、陶器は1.0~1.6となっている(出典:エフアールカンパニー株式会社HP フライパン倶楽部 新・加熱講座4 調理道具と熱の関係より)。数字が大きければ大きいほど熱伝導率が高い。

   銅は他のどの素材よりも一番早く水が沸騰するが、その分冷めるのも一番早い。一番温まりにくいガラスや陶器は、その代わり一度熱くなったら、なかなか冷めにくい。私が幼いころに家にあった魔法瓶は内側がガラス製であったし、いま単身赴任先で重宝している土鍋でおでんや寄せ鍋を作ろうとすると、沸騰してガスを止めてもしばらくグツグツと沸騰したままである。

   陶器はご存じの通り焼き物で、木節(きぶし)粘土・蛙目(がいろめ)粘土などの花崗岩の風化によって出来た粘土を主な原料にしている。同じ焼き物でも、よりガラス質の磁器には、陶石、長石、珪石、カオリンなどを粉砕して粘土質にしたものが原料として使われている。陶器と磁器などを総称してセラミックというが、このセラミックは焼く過程で炭素を多く吸収するので、他の物質よりも遠赤外線を多く出す性質がある。七輪や遠赤外線ストーブなどは、セラミックが熱を吸収して、強烈に遠赤外線を放射する熱を利用しているのである(ちなみに赤外線はその波長によって、近赤外線、中間赤外線、遠赤外線に分けられるが、波長の長い遠赤外線は物質の内部にまで届くのでモノを内側から温める性質を持っている。焼き芋を焼くのに遠赤外線を出す石が使われるのはそのためだ)。

   このように、熱しやすく冷めやすい銅は、フライパンにしたり、お湯を沸かしたり、冷えたアイスコーヒーなどを飲むのに適していて、熱しづらく冷めにくいセラミックは、温かい鍋物や熱いお茶、または耐熱性と蓄熱性からレンガなどの外壁に適しているのである。

   ところで、地球の大気はさまざまな気体やガスが成分であり、JAMSTEC(国立研究開発法人海洋研究開発機構)のHPによると、窒素、酸素、アルゴン、二酸化炭素一酸化炭素、ネオン      ヘリウム、メタン、クリプトン、一酸化二窒素、水素分子、オゾン、水蒸気などで構成されているそうだ。地球の表面は太陽から一度温められ、熱エネルギーである赤外線を宇宙に向けて放射する(ちなみに赤外線は、新型コロナの検温で使われるサーモグラフィや非接触型の体温計などで、その人が放出している赤外線量を測るのに利用されている)。すると今度は地球の大気中にある水蒸気や二酸化炭素やメタン(温室効果ガスと呼ばれている)が地表から放射された赤外線を吸収し、その一部をまた地表に向けて放射する。その放射された赤外線によって、地表の温度はバランスよく保っている。

   温室効果ガスは炭素水蒸気や温室効果ガスがなければ地表から放射された赤外線は宇宙に出て行ってしまうので、地表は再び温められることなく冷えてしまうが、逆に温室効果ガスが増えすぎれば地表に戻される赤外線が多くなるために地表の温度が厚くなってしまう。以前コラムにか書かせて頂いた地球上の氷期と間氷期の10万年という長いサイクルもこの放射平衡が原因ではあるが、産業革命以降に人類が化石燃料を用いた大量生産と、大量消費によって、特に20世紀の後半は、主要な先進国が位置する北半球高緯度地域を中心に地表の温度上昇が観測されていて、原因は大気中に二酸化炭素などの温室効果ガスが増えたことによる、と推測されている。いわゆる「地球温暖化」である。「オゾン層の破壊」は、よく地球温暖化などのトピックでも登場するが、実際は太陽からの地球に届く人体に危険な紫外線を吸収してくれているがこのオゾン層であって、二酸化炭素やメタンの温室ガス層は、地表から放射された赤外線を吸収し、また地表に再放出するので、オゾン層の破壊が温暖化を生んでいるわけではないのである。温室効果ガスは上述のように地表の温度をバランスよく保つためになくてはならないものなのだが、増えすぎてしまうと一旦温まるとなかなか冷えづらいために、原理上は地表がどんどん熱くなってしまうのである。

   温暖化に対する国際的な取り組みは、1997年に京都で開催された国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で採択された国際条約である「京都議定書」が有名であるが、その後継として、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みのパリ協定も耳に挟まれた方は多いだろう。温暖化防止の代表的なアクションは「二酸化炭素(またはCO2)排出量を削減する」ことであり、理由は温室効果ガスをこれ以上増やさないためだ。アクションは国の抜本的な対策から、各家庭でできる身近な取り組みまで多岐にわたる。エアコンを1℃下げる、車のアイドリングはなるべくしない、LED電球を使う、エコバッグを使ってプラスチック袋を減らす…、なかには炊飯器の保温を止める、テレビを見る時間を毎日1時間減らすなどの行動も奨励しているサイトも見かけた。まずは出来るところから始めたい。

   SDGsの13番目の目標である「気候変動に具体的な対策を」は、まさにさらなる地球温暖化を阻止しようとするためのアクションを促すものである。これには一市民として、ささやかではあるが積極的に取り組みたい。

   こんなコラムを書いていたら、コーヒーが飲みたくなった。さて、一度温まると冷めづらい陶器でコーヒーが飲める昭和レトロな喫茶店に出かけて、私の温暖化対策に向けた情熱も冷めないように温め直すとしようか。

パンチョス萩原