東京一極集中化 【SDGs 持続可能なまちづくり】

   連日、どの放送局でも流される新型コロナウィルス関連のニュースでは、ほとんどのニュースキャスターが、「今日、東京都では感染者数が…」という形で始める。知事としてコメントを語るのも、だいたい小池百合子東京都知事だ。東京および東京近郊に暮らす人にとっては直接的な話だが、それ以外の地域に暮らす人々にとっては、もっと自分たちの道府県について詳しく知りたいのでは、と拝察する。

   東京都は、日本の国土面積から見ればほんの0・6%なのに、総人口の約11%を占める1400万人ほどの人々が暮らしている。特に港区、中央区、千代田区の三区には、政治・経済・マスメディア・教育・文化と芸能をはじめ、あらゆる分野が集中している。全国にある資本金10億円以上の企業の約半分、外資系企業に至っては80%が東京に本社オフィスを構える。そんな東京都のGDPは、日本全体約2割を占めている(東京都産業労働局資料ほか)。

   いま、新型コロナ禍で会社活動から「出張が減少」し、「テレワーク」や「オンライン会議」などがかなり浸透してきた今、「東京一極集中化」が ”再び” 見直されつつある。

   これまでも「東京一極集中化」を緩和する政策として、今より40年近く前から幕張新都心(千葉県)、みなとみらい21地区(神奈川県)、臨海副都心地区、つくば学園都市(茨城県)などの首都圏内および近郊の都市開発が進められてきたが、それでも東京都の政治や経済などの機能が移転しているとは思えない現状だ。大阪府でも今から2カ月後の11月1日に「大阪都構想」の是非を問う住民投票が行なわれる予定だが、こちらは東京一極集中化の緩和というよりも、大阪府と大阪市の二重行政をなくそうという目的の方が大きい。だが、ここへ来て、コロナの影響で大企業を中心にリモートワークが増え、「わざわざ都心の一等地に高いオフィスを構える必要がない」という声も多く聞かれるようになり、東京都心のオフィスの縮小や解約を報じるニュースも増えてきた。人材派遣大手のパソナグループ、東京の本社機能を段階的に兵庫県の淡路島に移すと発表した。経営企画や総務、財務経理、広報などの約1800人のうち1200人を9月から2023年度末までに順次移す計画である(日本経済新聞9月1日)。グループ代表の南部靖之(なんぶ・やすゆき)氏は、「自然豊かな環境で通勤ラッシュから解放されて働くという、心の豊かさにもつながります」と語る(日経ビジネス9月3日)。

   今後、パソナグループのように本社移転を考える企業が増えるかもしれないが、大事なことは、地方の受け入れ態勢と移転による地域経済効果だと思う。移転する企業に対しては、税金面の優遇であり、それに伴う人々の移転先の災害対策と医療体制の確保、保育園・学校などの教育施設の充実、行政サービスの拡充、道路、鉄道・バスを含む公共交通機関のインフラ整備も必要となる。受け入れる側に対しては雇用の創出や地域の商業活性化につながる政策が必要だ。こうした取り組みは、実はコロナ以前の2015年に「地域再生法」が施行された段階で政府が注力してきたが、実際の成果は未だ政府が当初目標とした水準の5%にとどまっているのが現状である。

   政府も東京都から三権(立法・行政・司法)の中枢機能を東京圏外の地域へ移転する構想、いわるゆ「国会等の移転」を打ち出し、平成11年に国会等移転審議会答申が出されてから、国会において検討が進められている。これまでの進捗や調査結果は国土交通省のHPで閲覧できる。さすが国土交通省、と言うべきか、移転先の自然豊かな地方都市や町で、どのように人が自然と共生するかを考える事前調査では、地域の緑地帯を二次林、植林地、農耕地等に区分し、里山型動物からみた生物多様性を地域ごとの哺乳類分布の特性に分け、里山に生息するキツネ、タヌキ、ニホンリスと、奥山に生息するツキノワグマの出現率を解析している。つまり、「どの地域に移転したらタヌキに遭遇する確率が高いか?」、といった内容で非常に興味深い。

   農山村の動向を分析する「持続可能な地域社会総合研究所」が過疎市町村の人口動態を調査した結果によれば、2014年と2019年を比較して30代女性の増減率を調べると、3割の過疎市町村で増え、特に山間部や離島で増加が顕著になっているそうだ。鹿児島県三島村、島根県知夫村、北海道赤井川村などで増えているらしい(日本農業新聞2020年8月19日)。

   都心で働く人々が自然に囲まれた地方で同じように働き、プライベートな暮らしも充実していけたら本当に素晴らしい。ポストコロナではさらにこうした動きが加速するかもしれない。SDGsが目指す「持続可能なまちづくり」が日本中の各地域で活性化していくことに期待したい。

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)