最近の夜は、コオロギなどの虫の心地よい鳴き声とともに涼しい風が窓から入るようになった。季節は夏から秋へと移ろいでいる。今年の夏はおおいに暑かったが、何よりもマスクで外を歩くのが大変であった。外の暑さとマスクの息苦しさで、知らず知らずに家からあまり出なくなったのは間違いない。
今年の夏は、プラスチックの使用が例年に比べてかなり多くなったそうである。マスクに関して言えば、昨年の200倍ほどの売れ行きとなったそうだ。マスクをはじめ、コロナ感染防止のためのフェイスシールドやゴム手袋、ペットボトル、テイクアウト用のランチボックス、手洗い用泡せっけん・消毒用アルコールの容器、除菌ペーパーなどであるが、これら使われたプラスチックが新たな環境問題を起こしている、と日本経済新聞に出ていた(8月20日付)。世界中の河川や海でプラスチックごみが捨てられているのが見つかっている。プラスチックごみが細かく砕ける(マイクロプラスチックになる)と、漁業や生態系に影響を与える恐れもある。
国連が公表した予測によると、これらの世界的に廃棄されているプラスチックが海に流れて漁業、海上輸送、観光などに与える影響額は年間400億ドル(4兆2千億円)に上るそうだ。国連貿易開発会議は、海岸や海を汚しているマスクや消毒液のボトル、食品トレーなどを「コロナごみ」と呼んで警鐘を鳴らしている。ごみを外に捨てないように心がけることは何にも増して大切なことであるが、プラスチックが含まれる不織布マスクや消毒用アルコールの容器、ランチボックスなどの食品トレーや容器は、コロナウィルス拡散リスクの観点と海洋汚染の観点から、絶対にポイ捨てなどしてはならないごみである。
「コロナごみ」の行政としての対応は、環境省環境再生・資源循環局長が3月4日付で各都道府県知事・各政令市市長に対し、「新型コロナウイルス感染症に係る廃棄物の適正処理等について」という通知とガイドラインを出しており、それを受けて、ほとんどの市町村のHPには、新型コロナ対策として、家庭内での使用済みにマスクや、鼻をかんだティッシュ等の捨て方が記載されているが、家では適切に処分できても外に出てしまえば家庭内ほどに注意をしなくなって捨ててしまう人々もいるということなのだろうか。
世界のあらゆる場所で、「コロナごみ」が今後も増え続けると、SDGsで掲げている環境や生態系の保護などの目標達成や、日本が昨年2019年のG20(20カ国地域首脳会議)で、新たな海のプラスチックごみ汚染を2050年までにゼロにする目標「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の達成が大きく後退しかねない。一人ひとりの環境問題への意識や、個人のモラルも大事であるが、現状はそれだけでは解決しないレベルとなっている。スウェーデンのように99%の家庭ごみをリサイクルするための国としての取組や、地方公共団体における具体的な処理対策と合わせ、企業の取組も必要だ。
こうした中、世界各地で植物由来の素材を使ったマスクなどの開発が相次いでいる。ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)では、木の繊維から、微生物によって水や二酸化炭素などに分解される「生分解性」のマスクを開発している。またイギリスの企業は、顔を覆う部分は木材パルプを使いながらも透明度を確保したプラスチックを使わないフェイスシールドの開発に成功した。日本でも同様の取組は始まっていて、植物から取り出したでんぷんなどを使ってマスクを製造する企業も出てきているそうだ。
企業の中には、今後商品にプラスチック包装を減らす動きも出始めた。大手食品メーカーの「ネスレ」はキットカットなどのチョコレート菓子の袋を2019年9月から紙製に切り替えている。「不二家」も、50年以上前からプラスチック製だった主力商品のパッケージを先月8月から紙製に切り替えた。また、大手飲料メーカー各社はネット通販のペットボトル飲料についてはラベルをせずに販売する取り組みを始めている。紙製の容器を使ったミネラルウオーターも6月に設立したハバリーズ(京都市)や、紅茶などを手がける三井農林(東京・港)などから相次いで発売されている。
コロナ禍以前でも日本人の1人当たりのプラスチックごみの排出量はアメリカに次いで2番目の多さだった(国連環境計画(UNEP)資料)。日本の商品は過剰包装が多く、レジ袋も大量に使っていた。環境に対する配慮を今一度思い起こし、繰り返し洗えるマスクや、ペットボトルを買う代わりに水筒を使うとか、少しずつ普段の生活の中で工夫しながらプラスチックごみを少なくすることを心がけていくしかない。
参照:NHKニュース (2020年7月23日付、9月8日付)
パンチョス萩原(Soiコラムライター)