国連の意義 【SDGs パートナーシップ】

   第75回国連総会が米ニューヨークの国連本部で9月15日から開催されているが、今週22日月曜日から幕を開けた加盟国の国家元首による一般討議演説が熱い。今年は新型コロナウイルスの感染対策として、事前に収録されたビデオを流す形式で行われた。注目される初日に登壇した33人の国家元首が全員男性であり、女性が登場しなかったことに対しては、ジェンダー平等を謳(うた)う国連としては残念、との声も聞かれている。

   日本のメディアでは、米トランプ大統領や中国の習近平国家主席の演説の模様が放映されたが、新型コロナウイルスへの対応をめぐって米国側が「チャイナウィルス」と名指しするなど、両国の根深い対立が浮き彫りになった形であった。また、フィリピンのドゥテルテ大統領の演説では、中国が主張した南シナ海全域の管轄権を否定した2016年7月12日に下されたハーグ仲裁裁判所の判決について、「判決を葬り去る試みは断固として受け入れない」と異例の強い言葉で延べ、中国の海洋進出をけん制した。ビデオなのでどの国家元首も言いたいことを言えたのだろうか。もしも同じ場にいたら激烈に反応していたかもしれない。

   ご存じの方も多いと思うが、激しい対立をしている米中であるが、中国は2020年8月現在で米国債を1兆700億ドルも保有し、外国勢としては日本の保有額1兆2600億ドルについで第二位である。つまり米国は中国から日本円にして117兆円という膨大な資金を調達しているのである。また、南シナ海の領有権で対立が激化するフィリピンと中国においても、フィリピンは中国からODAを供与されており、国鉄の首都圏通勤鉄道(北線、南線)や首都圏地下鉄のような重要案件をはじめ、ルソン島北部のチコ川灌漑(かんがい)揚水、首都圏の橋の設置と拡幅、ミンダナオ鉄道などの支援を受け続けているのである。しかしながら、ゴールデンタイムに放映されるテレビニュースなどのメディアでは、国々の対立が誇張された報道になっている感はある。実際には、持ちつ持たれつで国々は成り立ち、民間企業レベルではいまやグローバルな協力体制なくしては事業が成り立たないことは事実である。

   国連の成り立ちについて、外務省のHPからそのまま引用すれば、「第二次世界大戦を防げなかった国際連盟の反省を踏まえ、国連(国際連合)は1945年10月に51ヵ国の加盟国で設立され、我が国は1956年12月18日、80番目の加盟国となりました。」とある(外務省https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/unp_a/page22_001254.html)。 近年では2011年に南スーダンが加盟し、現在加盟国数は193ヵ国に及ぶ。国連における公用語は、英語、フランス語、中国語、ロシア語、スペイン語、アラビア語の6カ国語である。

   当たり前の話ではあるが、国連こと国際連合(United Nations)は、世界が平和においてひとつ(united)となるために絆を強め、お互いを尊重しつつ共に貧困国救済や世界の紛争の抑止、人権の尊重、環境保護の促進などを目的として設立された国を超えた組織(Intergovernmental Organization)である。国連の最高トップは事務総長であり、現在は、元スペイン首相であったアントニオ・グテーレス氏が2017年よりそのポジションに就いている。

   私自身としては、今から4年前に、スイス・ローザンヌのとあるビジネススクールの講義の中で、2018年8月に逝去された、故コフィ・アナン前事務総長の講義を拝聴したことがある。アナン氏はその講義の中で、1990年に起きた有名なイラクのクウェート侵攻事件の際、彼が直接担当した国連職員900人と欧米人らの人質解放交渉において、お互いに利害が相反する状況で相手とコミュニケーションをどのように行なったのかについて詳しく教えて下さった。今思えば、世界平和のために尽力する国連という組織をとても身近に感じた本当に貴重な体験であった。

   国連が提唱するSDGsの17目標は、歴史の中で人類が戦争や奴隷制度、環境破壊などの禍根を残した失敗からの方向転換や、将来の希望に向かう行動など、生きとし生けるすべての人々が一人も取り残されないことを目指して生まれたものである。今週開催されている国連総会で、国家元首は一体誰に向かって演説をしているのだろう? 特定の国に対する批判があることはわかるが、75年前に多くの反省からスタートした国連の意義を改めて再認識し、各国がパートナーシップによって未来を切り開くための方策や決意について、より時間を費やして語って頂けたら、と心から願う。

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)