2017年、綾瀬はるかさん主演の映画「本能寺ホテル」がヒットした。
会社が倒産し、失業中だがやることが見つからず、なんとなく交際する相手が両親の金婚式の中で大々的に婚約発表をすると決めたことから京都を訪れた主人公の倉本繭(まゆ)子が、宿泊するはずだったホテルが手違いで予約できておらず、ひょんなことから路地裏にある「本能寺ホテル」に泊まることになることからストーリーは始まる。
そのホテルはミステリアスで、繭子がエレベーター内で金平糖を食べるとホテルロビーの古いオルゴールが動きだし、1582年にタイムスリップしまう。そこで織田信長や森蘭丸らに出会う。彼らとの関わりの中で、繭子が自分の生き方を見つめなおしていくストーリーである。
「ごゆっくりおくつろぎください、観光もお楽しみください」と、ホテルの支配人から清水寺の参道で和服姿を楽しんむ若者たちの写真が印象的な「観光案内チラシ」を渡されるも、目標を失い、周りの人が決めていくことに身を委ねた成り行きの日々を送る繭子は観光などに興味がない。だが、ホテルのエレベーターからタイムスリップした先の1582年の本能寺で信長らに会い戸惑う。最初は信長の権力に任せた横暴振りをたしなめたことで彼に刀で斬られそうになって、靴やポケットの中の「観光案内チラシ」を落として命からがらホテルにタイムスリップして現代に脱出したりする。ホテルで誰かが呼び鈴が鳴らした時だけ現代に戻ってこれるのだ。
やがて何度かタイムスリップする中で、繭子は信長と京の町を歩いたり、会話をしていく中で彼の人間性に触れ、彼の「自分がやりたいのは天下統一。みなが穏やかに笑って暮らせる世の中を作りたい」というビジョンを聴く。
繭子は、自分は400年後の未来からやってきた人間であることを伝え、1582年の迷い込んだその日が、明智光秀が信長を裏切り寺を焼き払う「本能寺の変」の前日であり、「歴史によれば、あなたは明日本能寺の炎の中で死を遂げることになる」、と信長に伝える。しかし家来らには信じてもらえない。
そして本能寺の変の当日となる。
信長は、繭子が落とした「観光案内チラシ」をずっと懐に入れていた。「これはおまえの世界か?」と繭子に尋ねる。「そうだ」と答える繭子。すでに本能寺は火に包まれており、「どうして、逃げなかったのですか? あなたが天下統一をして、みなが穏やかに笑って暮らせる世の中を作りたい、という夢を叶えるのではないのですか?」と繭子に尋ねられた信長は彼女にこう答える。「わしはもう少しで大事なことを忘れるところだった。おまえの持ってきた紙の中の若者たちはみな笑って幸せそうだ。未来の日本は明るい。天下統一など誰がやってもいいことなのだ。」と。本能寺でたとえ自分が死んでも、みなが穏やかに笑って暮らせる世の中を作ろうとする自分と同じ志を持つ人たちが後世に渡って現れることをそのチラシを見た信長は確信し、史実の通りに自らの宿命をあえて全うするのである。
リーダーと呼ばれる人々は、自分のビジョンと行動で人をひきつけ、物事を最後までやり遂げる統率力を持つ。自分の立てた目標を達成することこそ素晴らしいリーダーとしての証であり、まわりに人たちや世間から評価される。だが、この映画に見る真のリーダー像は違う。信長は自分のビジョンを自分が実現・完遂することにこだわらなかった。同じ思いを引き継いで行動していれる人たちを信じ、その人たちに思いを託す―――自分が称賛を受けることなどに興味も示さずに。
ある日信長は繭子に、「おまえは何がしたい?」と尋ねる。答えられない彼女に対して、信長が言う「やりたいことに大小はない。”できない” じゃなく “やりたいかどうか“ だ」、という言葉が印象的だ。
参照「本能寺ホテル」 @2017東宝 鈴木雅之(監督) 相沢友子(脚本)
パンチョス萩原(Soiコラムライター)