「生命は利己的にふるまっているように見えても実は利他的にふるまっている。富めるものは、必ず自分の余裕や余剰あるいは遊びの部分を環境に戻して、“利他的にふるまっている”からこそ、生態系全体がバランスをとっている」と、生物学者であり青山学院大学教授の福岡伸一氏は言う。
「植物がもし利己的にふるまって自分自身に必要なだけしか光合成しなければ他の生物が生存する余地はないでしょう。でも植物は天気がよければ太陽の光をたくさん吸収して過剰なまでに光合成をし、実を実らせ、葉っぱをたくさん茂らせる。落ち葉は土壌微生物やミミズなど他の生物を育んでいるのです。自分を高めることができたら余剰は必ず環境に戻すという利他性が生命を支えている(原文ママ、引用:2020年9月26日 日本経済新聞記事 万博×コロナ×未来 プロデューサーに聞く(3)より)」
植物に限らず、動物や昆虫に至っても、たくさんの卵から赤ちゃんたちは全員大人や成虫になれる訳ではなく、途中で他の動物のエサとなり、たとえ大人や成虫になっても天敵の恰好の食糧となる。生態系はそのような生命の流転の中で均衡し、地球上の生物と自然は共存しているのであるが、地球上の生態系で頂点にいる人類だけが、利己的に資源を搾取し、過剰となったものをゴミとして廃棄している、と警鐘を鳴らす人々は多い。
気候変動の原因となる環境破壊を伴う生活を営み、富める者はさらに富み、貧しい者はさらに貧困に陥るという格差が生じ、現在でも世界総人口の約10%は未だに人が幸せに生きていける最低の生活水準も安全保障も許されていない状況下におかれている。仮に経済的に安定し、人並み以上の能力があったとしても、人種やジェンダーなどで差別され、幸せに暮らすことができない人々がいることは、今年5月にアメリカ・ミネアポリスで黒人のジョージ・フロイド氏が白人警官によって死亡した事件がで大規模デモに発展したBLM運動(Black Lives Matter)を見ても明らかであり、人類に平和共存が訪れるのはいつの日か?と思ってしまう。
人が他人の幸せを顧みず利己的に生きようとすると、物事を損得で考えるようになり、「いかに自分が得するか」、という発想から行動を行なうことになる。何でも手に入っている間は自分は楽しいが、人を楽しませることはできず、他者の気持ちを考えず傷つけることになるので、次第にまわりのひとは離れていく。やがて信頼もされなくなる。
反対に利他的に生きようとすると、他者の生き方に共感し、同じ方向をむいてひとつのことをやり遂げると一人では味わえない幸福がある。自分が持っているものでまず自分が満たされた後、他の人々を想い、分け与える。まわりの人から信頼され、「ありがとう」と感謝され、愛される。
利他的に生きるというのは、決して利己的な人生を否定し、自己犠牲を伴って行動することではない。「他の人々のために自分が役に立ち、他の人々と共存し幸せになる」、という楽しみ方があることを知り、自分を中心とした生き方からすべての生物の共存という考え方に対し、心の変化が起きることだと思う。
英語で利他主義を”Altruism”というが、語源は、まさにAlter(変わる)+ism(主義)だ。植物や動物たちの生態系保持に見られる利他性を良き教えとして、どのように生きていけば良いのかを学び続けたい。
パンチョス萩原(Soiコラムライター)