Fly me to the moon 【SDGs 先端技術】

   5~6年前のことだったか、車を運転中にNHKラジオをつけたら「子供電話相談室」をやっていた。ももちゃん、と名乗った4歳の女の子が「どうしてお月さまは、いつも、ももちゃんについてくるの?」と尋ねたところであった。   

   「それでは先生、お願いします」と女性アナウンサーが先生に振ると、「そうか、ももちゃんにお月様がついてくるんだね。それはね、地球と月の距離は38万キロあって、あまりにも離れているもんだから、人が少し動いただけでは自分から見える月の位置は変わらないからだよ。ももちゃんも新幹線に乗るよね? 近くの景色は早く後ろへ流れるけど、遠くの山は動いていないように見えるよね?それと同じなの。わかった?」「う~ん…」。先生の答えは容赦なかった…。

   太陽と月の大きさを比べた場合、太陽の方が月よりも直径にして約400倍大きい。なので、もしも太陽と月が地球から同じ距離にあれば太陽の方が400倍大きく見える。ところが偶然にも地球と太陽の距離は、地球から月までの距離の約400倍なので、地球から見たときの太陽と月の大きさはほとんど同じになるのである。これが皆既日食で太陽が月とぴったり重なってしまう理由だ。また、 地球からはいつも同じ月の表面しか見ることができない。その理由も、地球の重力によって月が一周回る自転周期と 地球を回る公転周期がそれぞれ27.322日と等しくなっているためだ。 地球に住む私たちにとって、月の存在は不思議かつ重要だ。

   人類は、月を太古の昔から畏敬の念を持って崇拝の対象としたり、月の神様を神話に登場させたりしてきた。日本では古事記や日本書紀に、夜を統治する男神として、「月読命(ツクヨミノミコト)」が登場する。エジプト神話ではトト、インド神話ではソーマなどが月の男神で、 ローマ神話のルナ、ギリシャ神話のセレネなどが月の女神である。

   月に関する民話も多く、地球から見える月面が「うさぎ」に見えるところから、インド、中国、メキシコなどの国々でも「月のうさぎ」の話が古代からある。日本には中国の話が伝わったようであるが、不老不死の薬をうさぎが手杵(きね)でせっせと作っている姿が日本では中秋の名月が稲刈りの時期となるため豊穣(ほうじょう)の願いとともに餅つきに変わったらしい。

   そんなロマンチックな月であるが、1969年アポロ計画で人類が初めて月面に着陸して半世紀以上が経ち、時代は月のさらなる研究に乗り出している。

   文部科学省は昨年「国際協力による月探査計画への参画に向けて」という資料を配布し、日本としては諸外国に後れを取っている宇宙開発ではあるが、国際協力に積極的に参画していくことで日本の存在感を増していくという方針を打ち出している。現在、 アメリカ航空宇宙局(NASA)が人類2度目となる月面着陸を目指し、「アルテミス計画」を打ち出した。計画によれば、男女各1人の米国人宇宙飛行士を月面に送り込むことを目指す。

   宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、このアルテミス計画の中で建設される初期型ゲートウェイの組立要素(ミニ居住棟)に、宇宙ステーション「きぼう」等で蓄積した日本の技術である生命環境を制御する熱制御系や空調系の技術・機器(例えば熱制御系ポンプやバッテリー等)を提供することを打ち出した。JAXAはまた、現在開発中の新型補給機(HTV-X)・H3ロケットを用いてゲートウェイへの物資・燃料補給を行うことも計画している。

   最新技術で確認された月に存在する水資源を活用し、2030年までに人類初の有人火星着陸と火星探査のために、ベースキャンプを月の上に構築していく、という人類の次のチャレンジが始まっている。


   ”Fly me to the moon” や “Moon River”、”Moonlight Serenade” など、ムーディーなジャズナンバーを聴きながら秋の澄んだ空に眺める月は味わい深い。冒頭のももちゃんが素敵な大人の女性になる頃には、恋人と一緒に月で開催されるジャズ・コンサートにデートしているかもしれない。

 

 パンチョス萩原 (Soi コラムライター)
 

参照・引用文部科学省  国際協力による月探査計画への参画に向けて https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2019/08/29/1420708_2_1.pdf

月探査情報ステーションHP https://moonstation.jp/