最近使っていたマウスが壊れたので買い直した。今では当たり前のワイヤレスマウス、それもBluetooth接続のモノを買ったのだが、さて、取扱説明書がついていない。その代わりに包装自体に「紙資源の節約のため、QRコードからダウンロードするか、サイトにアクセスして下さい」、とある。時代は変わったものだ。テレビの応募も、回転ずしやレストランのメニューもいまやQRコードで自分のスマホで行なうことが主流となっている。改めて言うが、時代は変わったのである。
年配の方に限らず、これまでパソコン・タブレットPCやスマホに全く関心がなかった人や、持っていてもあまり積極的に使わなかったりする人は、これからの時代、それらを駆使している人に比べてかなり情報量に格差ができると言われている。テレワークでのオンライン会議や自動翻訳機能の活用、さらにはスマートスピーカーに話しかけて情報を入手したり、ものを買う人とそういうことを行わない人では仕事の進み方や生活のクオリティが全く異なるものになりつつある。
この格差のことを「デジタル・ディバイド」という。実際には、このようなスマホなどの情報コミュニケーション手段を駆使している人とそうでない人のような個人の格差や、地域ごとの事情(都市か過疎地か)による基地局やサービスへのアクセス量の格差、ITに莫大な投資が可能な大企業とそれができない中小企業などの企業規模による格差などの「国内ディバイド」や、情報技術や情報教育に富んだ国とそうでない国との格差などの「国際ディバイド」などのタイプに分けられる。いずれにせよ、世界に住む人々のそれぞれのデジタル通信技術の使い方によって(具体的にはインターネットの恩恵の差によって)格差が広がりつつある。
日本はデジタル化が遅れていると言われるが、政府はそのためにスマホの普及率を増やそうとか、IT技術で最先端を行くべく予算をつぎ込もうとしているのではない。上述の「デジタル・ディバイド」を解消することが、「あらゆる人々が活躍する社会の実現」に直結すると考え、そのためにSDGs推進本部のアクションプランで「情報バリアフリーの推進」というターゲットを独自に打ち出し、誰もが情報コミュニケーション技術(ICT)の恩恵を享受できるよう,高齢者・障がい者に配慮した通信・放送サービス等の開発・提供等を行うための取組を実施しているのである。
デジタル庁が発足し今後はどうなるかわからないが、現在のところ、省庁ごとに「IT(ハードウェア、ソフトウェア、インフラなどの情報技術)」か、「ICT(例えば医療や教育の現場におけるITを駆使した情報活用など。情報通信技術)」のどちらを使用するかが棲み分けられている。経済産業省は通信技術自体を扱うので「IT」を用い、総務省や文部科学省では情報通信技術や情報通信そのものを扱うのでので「ICT」を使っている。情報通信白書や統計データは総務省の管轄となり、HP上で開示している。
ICT分野のデジタル化では、昨年4月から文部科学省が新学習指導要領の実施に踏まえ、タブレットを使用した「デジタル教科書」を制度化したり、厚生労働省や介護業界がインターネット回線を利用しての一人暮らしの高齢者や認知症の人々を見守るシステムや健康相談などが進められていたりする。
「情報通信技術(ICT)を駆使すること」はあらゆる人々が活躍する社会をつくりだすためにとても重要なことであるが、それはデジタルの情報に溢れた「情報化社会」をさらに加速させよう、というものではない。現代は情報を手にできる人にとっては既にこれ以上ないほど生活の中に溢れており、便利で快適なはずの情報化が社会に大きな影を落としている側面もある。
スマホのゲームなどに膨大な時間を使うスマホ依存やSNSにおける、いわゆる「炎上」などの情報モラル、出会い系サイトや詐欺サイトから被害にあったり、パスワードが漏洩したりする被害も大きな問題となっている。またスマホに至っては人の暮らしぶりも変えた。2018年JR東日本が募集した川柳の最優秀賞作品「スマホ見て まわりの迷惑 見えてない」にあるように、歩きスマホはいまやとても危ない社会現象である。
スマホやIoTが普及し、いまやたくさんの人・モノがネットワークにつながって手軽に情報の伝達、共有が行える環境で私たちは生きている。ますますデジタル化が進み人々が社会で活躍できる場所が増え、働き方や生活スタイルも大きく変わっていくことだろう。情報モラルの徹底と正しい使い方をすることにより、誰もが情報通信技術の恩恵を受け、より良い社会となることを期待したい。
パンチョス萩原(Soiコラムライター)
参照
外務省 デジタル・ディバイド
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/it/dd.html
SDGs推進本部 SDGsアクションプラン2020
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/actionplan2020.pdf
JR東日本 『危険です!歩きスマホ』キャンペーン川柳コンテスト
https://www.jreast.co.jp/press/2018/yokohama/20180807_y01.pdf