昨日は、福島県の相馬市に出張に行ってきた。東⽇本⼤震災は、多くの人々の慣れ親しまれた郷⼟の光景を⼀変させただけでなく、⽇常⽣活を⼀瞬にして奪い去り、被災者をはじめとする市⺠の⼈⽣観・世界観を⼤きく変えてしまう出来事であったが、今回訪れた相馬市の市街地は、復興の取組によって震災の面影はなかった。しかし、少し離れた地域では今も立ち入り禁止となっており、あの日から9年半経った今でも長い長い再生への道のりは今も先が見えない。
震災はその甚大な被害によって、計り知れない悲しみを数えきれない人々に残したが、一方でその中から希望と教訓を得ることもできた。その一つが「震災の時、本当に必要な非常食」である。
3.11では、水道・電気・ガスなどのライフラインが完全に途絶えた中で、自治体が備蓄していた水や必要最低限の食糧である「乾パン」などの加工食品が非常食となった。しかし、水が少ない食事はのどが渇いたり、咀嚼(そしゃく)力の弱い高齢者や乳児に乾パンは食べづらく、水も「貴重品」として心理的に我慢することから、水分摂取を控えることによる健康被害(脱水症状、熱中症、便秘など)が増えてしまう。
また救援物資が届き始めた後でも、「レトルトやインスタント食品」はガスがなければ役に立たない。ライフラインが復旧して暖かい食事がようやく食べられるようになると、今後は一度に大量に調理が可能な「焼きそばやうどん、おにぎり」などの炭水化物中心の食事となり、栄養が偏ったり、糖尿病の人たちは食べられなかったりする。さらには食べ残しのお皿や消費期限切れの食品からの悪臭や、虫の発生などの不衛生な状態となる。これらはすべて実際に震災で避難生活をした人たちの経験である。
株式会社ワンテーブル(宮城県多賀城市八幡字一本柳117-8 代表取締役 島田 昌幸氏)は、実際に被災を経験し、本当に欲しかった非常食は何かを問い続け、それが「水なしで食べられる栄養価の高いもの」であることにたどり着き、世界で初めて「常温で長期保存可能な防災備蓄ゼリー」である「LIFE STOCK」を開発したスタートアップ企業だ。この「LIFE STOCK」は、電気・水・ガスがなくても食べることができるのが最大の特徴である。またライフライン復旧後でも炭水化物中心の食事の食べ過ぎや栄養バランスが偏ったりすることない。「あの時、本当に欲しかった非常食」が実現したのである。
「LIFE STOCK」の開発には5年の月日を要したそうである。特に大変だったのは、腐りやすいゼリーを乾パン並みの5年間以上の賞味期限にするための「無菌充填技術」である。ワンテーブルはこの難題を、アルミなどの4層構造フィルムとレシピコントロール技術を組み合わせた「TOKINAX」と呼ばれる重点技術で開発により5年半という賞味期限を実現した。
現在、ワンテーブルは、この防災備蓄ゼリー「LIFE STOCK」が学校などの災害備蓄食としての採用を目指している。そのために、学校向け教育資材トップシェアの内田洋行と資本業務提携を結んだ。内田洋行とノウハウを共有し、全国の学校施設などに災害備蓄食や、保育園や幼稚園向けの防災絵本教材を販売していく。つまり、お互いの強みを生かし、内田洋行の販路である全国の小中学校において、教室のロッカーに収まる専用ボックスに備蓄ゼリーや防災用品を詰めて販売し、学校の防災力向上につなげるのである。既に仙台市はワンテーブルと物資供給協定を結んで、災害時には優先的に備蓄ゼリーの供給を受ける体制を敷いている。
また、ワンテーブルは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と非常食や宇宙食などの開発プロジェクトを進行中である。学校における防災事業を内田洋行、宇宙事業をJAXAと進める中で、3社間の防災ネットワークを活用し、JAXAがロケットに断熱のために使う塗料を学校の体育館の建築資材として展開する試みを内田洋行のネットワークを使って行なうなど、備蓄ゼリーの枠を超えた災害対策への取組へと発展している。
「LIFE STOCK」は、「おいしさ」にも相当のこだわりを持っている。ゼリーの材料に地元の美味しい食材を使用したり、美味しいフレーバーのためにシェフとコラボしてメニューを開発するなど、さまざまな人達との協働をしていく。
震災はまたいつ来るかわからない。万が一のときにこのような「本当に欲しい非常食」が全国の学校、私たちの町、各家庭に備えてあったら多くの人々の救いとなることは間違いない。
パンチョス萩原(Soiコラムライター)
参照・出典
ワンテーブル株式会社
「ワンテーブル、内田洋行と資本業務提携 防災教材開発」 (2020/10/13 日本経済新聞)
PRTIMES (2019年9月2日)
3.11の極限状態を教訓に生まれた「5年保存備蓄食」 防災ゼリー『LIFE STOCK』先行発売