透き通るコバルトブルーの海に浮かぶコテージで、彩り豊かな熱帯魚の泳ぐ姿を見ながら、会社からのメールをチェックし、レポートをまとめ、上司とオンラインでミーティングをする。あるいは、霧深い森のひっそりとしたキャンプ場で、家族ぐるみの友人らとバーベキューをしながらクライアントへの契約書をまとめ、オンラインでコンサルティングをつとめる…..。
リゾート地や温泉地などで余暇を楽しみつつ仕事を行うスタイルの「ワーケーション」の例である。
「ワーケーション」は、政府が新たな旅行の在り方として提唱し、関係省庁、地元自治体、関係業界との緊密な連携の下で普及させるべく推進している。コロナ禍がもたらしたものと言えば、「新しい日常」である。5月の緊急事態宣言下では、3密回避、外出自粛の中、厚生労働省が「ICT(情報通信技術)」を活用して時間や場所などを有効に活用できる柔軟な働き方である「テレワーク」を積極的に採用するように会社に依頼した。その後「テレワーク」や同様の「リモートワーク」は定着し、オフィス不要論を唱える経営者や、本社を地方都市に移転した会社も今では珍しくなくなった。
「テレワーク」の大多数は、週1~2回の定期的な職場への通勤などを前提として、自宅やカフェなどのスペースで仕事をしているものが主流であるが、「ICT(情報通信技術)」が整備されている昨今、正直「どこでも仕事ができる」と思う企業や個人も増えている。そんな中で思い切って、自然に恵まれた環境に移り住む人々もいる。
「ワーケーション」は、「テレワーク」とは少し毛色の異なるコンセプトだ。政府が後押ししている「Go To トラベル」などで、十分に余暇を過ごしている中で、「仕事も」可能、というところがアピールポイントなのである。したがって、国土交通白書にも記載があるが、旅行中に「ほんの少しだけ」仕事をして、あとは余暇をエンジョイしてください」というのが「ワーケーション」の本来のスタイルである。例えば、3日間の家族と行く旅行中、毎日の午前中は観光やレジャー、3日とも午後は仕事、というスタイルは勤務時間が長いので認められていない。「ワーケーション」の定義で許されるのは「2日目の午後だけ」とかの仕事を大幅に限定したものであり、あくまでも余暇に重点をおく働き方が「テレワーク」と異なる。
「ワーケーション」には賛否両論はあるが、企業、個人のメリット・デメリットを正しく把握すれば、新しい働き方になることは間違いない。企業にとってみれば、「ワーケーション」はテレワークの延長線上の勤務体系という考え方と福利厚生的な要素を混ぜ合わせたような形であり、社員の「ワーク・ライフ・バランス(仕事とプライベートのバランス)」の向上につながる。個人にとってみれば、閉塞的な在宅勤務から解放されて、長期間の観光や帰省においても職場や自宅とは違った環境でリラックスしながら仕事ができる。家族サービス、自らのリフレッシュ、仕事の3方よしとなる。
地方にとっては、大きく業績が落ち込んだ観光業や飲食店に対して、旅行者が増えることで観光収入増や地元の経済活性化となる。そんな中で、全国の地方自治体に先駆け「ワーケーション」を推進・PR しているのが和歌山県だ。世界遺産である熊野古道の修繕活動等の CSR 活動を企画したり、Wi-Fi 環境のある仕事場の提供を含むワーケーション体験会を開催するとともに、「ワーケーション」のPR 動画の作成などを積極的に行なっている。
新しい働き方の推進は、以前からも提唱されてきたが、コロナ禍の中で一気に注目されてきた。しかしながらベースにあるのは、どんなに効率的な制度を導入しても、その働き方のルールを会社も従業員もしっかりと守っていくことに尽きる。リモートの部下にどのように指示を出したり、報告を受ければよいのかということで悩んでいる上司はたくさんいる。お客様との商談をオンラインで行なうことに慣れていない営業マンもいることだろう。たとえワーケーションで休暇を取りつつ仕事をする上司に電話をするのをためらう部下もきっといる。離れていても相手との意思の疎通がきちんと的確にできる環境と心構えをまずは築く必要がある。
新しい働き方で一番備えるべきものは、求められる新しいコミュニケーションのありかたに適応できる能力なのかもしれない。
パンチョス萩原(Soiコラムライター)
厚生労働省 「テレワーク普及促進関連事業」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/telework.html
国土交通白書 「変化する我が国の現状」
https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h29/hakusho/h30/pdf/np101300.pdf