芸術、文学、音楽、科学、エンターテイメント、スポーツなどの各分野で素晴らしい活躍をしている人々は多い。それらの偉大な人々を自分の目標にしたり、たくさんの生きる勇気をもらったり、あるいは作品を純粋に楽しんだりしながら私たちは生活している。
そんな各分野で活躍する著名人たちが、その知名度を活かし、国連のさまざまな活動を支援している。彼らは国連事務総長に「国連ピース・メッセンジャー」として任命され、国連の活動に世界の関心を集めるために協力を引き受けている。ハリウッド映画界のレオナルド・ディカプリオやマイケル・ダグラス、シャーリーズ・セロンをはじめ、音楽界ではスティービー・ワンダーや、チェロ奏者のヨーヨー・マ、バイオリニストの五嶋みどりなどが現在「国連ピース・メッセンジャー」として活躍中だ。彼らは任命後の2年間、「グローバル市民」としての最高の栄誉を与えられ、世界各地の数十億人の生活改善に向けた国連の取り組みに対する認識を高めるために講演会やイベント、また現地での活動に参加することによって支援をする。
「国連ピース・メッセンジャー」とよく似たものに「国連親善大使」があるが、両者の違いは、「国連ピース・メッセンジャー」は国連事務総長が任命するのに対し、「国連親善大使」は国連児童基金(UNICEF)、世界食糧計画(WFP)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)など、国連の基金、計画および専門機関の最高責任者が指名し、国連事務総長がそれを承認するところである。両者ともに国連のさまざまな活動を通じ、誰も取り残されない平和で平等の社会を築くために活躍することは同じである。
そんな「国連ピース・メッセンジャー」に任命された人々の中でも、ノーベル平和賞の受賞歴もある著名な方々は、それぞれが人生の中でこれ以上ない地獄を経験してきた。
1998年に任命され、2016年に亡くなったノーベル平和賞の作家・人権活動家・ボストン大学教授のエリ・ヴィーゼルは、現在のルーマニアに生まれ、15歳の時に家族と共にナチスの強制収容所に送られ、母と妹が殺され、父親が病死する。戦後、ホロコーストの経験を綴った自伝である「夜」を著し、貧困撲滅やスーダンのダルフール地方での残虐行為の根絶のために活動した。時の国連事務総長であった潘基文(パン・ギムン)は、エリ・ヴィーゼルのことを「寛容と平和の世界で最も重要な証人、そして最も雄弁な擁護者の一人」と伝えている。
2017年に任命され、現在も「国連ピース・メッセンジャー」として活躍している、フェミニスト・人権活動家のマララ・ユサフザイは、パキスタンに生まれ、2012年下校途中にタリバンによって女性教育弾圧に反対したことを理由に銃撃を受けた。しかし、その後も女性の教育を受ける権利を訴え続け、彼女の活躍によって、パキスタンは国会で初めて無償で義務教育を受ける権利を盛り込む法案を可決するに至った。2014年には、最年少でノーベル平和賞を受賞した。すべてのレベルで教育へのアクセスを広げ、特に女性と女児の就学率を引き上げるという点で大きな活躍を現在も続けている。
平和の実現と人権の尊重は、国連の存在意義において、あらゆる活動の根底にある。1945年と1948年にそれぞれ採択した「国連憲章」と「世界人権宣言」は、その要(かなめ)だ。
平和は人々が協力し合って「つくる」ものであって、むこうから「訪れる」ものではない。そのためには世界で「今何が起き、私たちにできることは何か」を認識し、行動することが必要である。
私たちもたとえ国連事務総長によって「国連ピース・メッセンジャー」に任命されなくても、それぞれ与えられた環境、身近な社会の中で、平和の伝達者として今日この日から行動できるのである。
パンチョス萩原(Soiコラムライター)
国際連合広報センター 国連ピース・メッセンジャー
https://www.unic.or.jp/activities/celebrities/peace_messengers/