国連の世界人口推計(2019版データブックレット)によれば、2050年に世界の人口は97億人となり、2100年には110億人のピークに達するという。
今後30年で20億人が増加する予測の中、自然破壊などが起因して、2050年にはおよそ50億人もの人々が食糧危機や水不足に直面するという研究結果もある(*下段参照)。
世界人口の増加と経済的に豊かな中間層の拡大は、世界規模で肉や魚の消費量の増加をもたらすことになるが、畜産や養殖のためには生産物の何倍もの穀物や魚粉が消費されるために、あと5年もすると世界規模でタンパク質の需要に対して供給が追いつかなくなると10年ほど前から推測されてきた。2013年には、国際連合食糧農業機関(FAO)が世界の食料危機の解決として、栄養価が高い昆虫類の活用を推奨する報告書を発表している。人々は昆虫を食することが当たり前になる日が来るかもしれない。
一方で、バイオテクノロジーも一層進化しており、牛の筋細胞からステーキ肉を作製する「培養肉」の研究も進んでいる。
日清食品ホールディングスは、東京大学などとの共同研究で、2024年度中に「培養肉」の基礎技術確立を目指している。「培養肉」が完成すれば、牛を生育することなく人工的に肉を作ることができるため、育てる過程で発生する多量の温暖化ガスや環境負荷を低くすることが可能となる。また、飼料の穀物が必要なくなり、食糧問題への解決の一つとなる。動物を殺生しなくて済むため、動物愛護団体もこの技術に期待を寄せている。
「培養肉」の研究は、オランダのマーストリヒト大学教授であるマーク・ポスト医学博士が開発した「人工肉」を使って2013年にイギリスで開かれた「人工肉バーガー」の試食会から開発に拍車がかかり、現在に至っている。理論的には数個の幹細胞から1万~5万トンの肉が得られるため、食糧危機の解決にもつながる。
当時はコストの問題があり、試食された「人口肉バーガー」1個の値段は桁外れの約3500万円もしたが、現在では通常のステーキ肉にかなり近いコストまで下がっているという。日本のバイオベンチャーである株式会社インテグリカルチャーも再生医療の組織化技術を用いて「細胞培養肉」の研究開発している会社のひとつだ。
いつか私たちが日常的に食べている牛肉、豚肉、鶏肉、野菜までもが食べられなくなる日が来るかもしれない。バイオ技術の進歩や環境負荷を低減して循環型の食物生産システムを構築して持続可能な食糧調達をする努力などは、今後懸念されている世界人口増加で懸念される深刻な食糧不足問題への解決の一つとなると期待してやまないが、同時に生物資源の乱獲や作物が育つ自然環境の破壊などをしない努力、食べられるものを捨てるといった「食品ロス」を出さない努力、食品リサイクルをする努力なども決して忘れてはならない。
30年後の食糧事情は今の私たちの生活によって大きく左右されるのである。
パンチョス萩原(Soiコラムライター)
参照
(*) 2019年10月11日付 学術誌「サイエンス」に掲載された「Global Modeling Of Nature’s Contributions To People」(邦訳:自然の恵みの全世界モデリング。米スタンフォード大学の景観生態学者レベッカ・チャップリン・クレイマー氏の論文
国連広報センター 世界人口推計2019年版データブックレット
https://www.unic.or.jp/files/8dddc40715a7446dae4f070a4554c3e0.pdf
日本産業新聞 2020年10月27日付
「牛の細胞でステーキ肉 日清食品、食料危機に挑む」
株式会社インテグリカルチャー HP