Soiコラムニスト 萩原氏が丸善主催のSDGsイベントに登壇しました。
9月30日(水)午後3時から社会的インパクトの見える化とコミュニケーション
ありがとう、給食 【SDGs 食の教育】
現在私が勤めている神奈川県秦野市の工場の隣は、秦野市の給食センターである。主に秦野市内の9つの公立学校向けの給食をつくっている。通勤で通る道沿いにあって、通り過ぎる度に自分の給食の頃を思い出す。私の通った小学校、中学校は、それぞれ学校内に給食室があって給食当番になると割烹着と三角巾、マスクを身に着け、クラス全員分の給食を取りに行った。ひとクラス35名くらいはいたので、スープの入った金属製の食缶やガラス瓶に入った牛乳はめちゃくちゃ重かった記憶がある。献立は食パンがメインだったが、月に一度のソフト麺と呼ばれるビニール入りのうどんや砂糖をまぶした揚げパンと呼ばれたコッペパンなどが人気だった。給食にお米が登場したのは中学校3年生の頃で、断熱機能を備えた運搬容器はこれまたえらく重く、一人では運べなかった。
給食の管轄は文部科学省だ。日本における学校給食は、明治22年に山形県鶴岡町の私立忠愛小学校で、貧困児童を対象に無料で食事を給付したのが始まりとされる(全国学校給食会連合会)。その時のメニューは、おにぎり、塩鮭、菜の漬物であった。その後、広島県、秋田県などの尋常高等小学校において同様な貧困児童のための給食が実施され、20年後には岩手県、静岡県、岡山県下の一部に広まっていった。大正、昭和と日本が西洋と並ぶ経済成長を目指す中で、「子供は国の宝」として、栄養不良児、身体虚弱児のためにも、栄養的な学校給食のための内容の充実が図られるが、当時はあくまでも貧困などに苦しむ家庭の支援が目的であった。
昭和19年~22年にかけては、戦時中ではあったが、全国の小学生児童に給食が広まった時期である。脱脂粉乳やトマトシチューなどの内容であった。昭和25年までには、ユニセフと戦勝国アメリカからミルクと小麦粉の寄贈をそれぞれ受け、完全給食(主食、おかず、牛乳すべてが提供される給食)がスタートした。昭和29年(1954年)には「学校給食法」が成立、翌年公布された。その2年後の昭和31年(1956年)には、学校給食法の一部が改訂され、初めて中学校にも適用されることとなった。平成元年には給食のメニューや方法も多様化し、斬新なビュッフェ式の給食も取り入れられるようになった。学校給食法も数回改訂され、現在施行されている法律は平成28年改訂のものである。
学校給食法によると、給食の目的は、「学校給食及び学校給食を活用した食に関する指導の実施に関し必要な事項を定め、もつて学校給食の普及充実及び学校における食育の推進を図ることを目的とする(第一条)」とある。文部省はこの法律の中で、7つの学校給食の目標を第二条に制定している。
- 適切な栄養の摂取による健康の保持増進を図ること。
- 日常生活における食事について正しい理解を深め、健全な食生活を営むことができる判断力を培い、及び望ましい食習慣を養うこと。
- 学校生活を豊かにし、明るい社交性及び協同の精神を養うこと。
- 食生活が自然の恩恵の上に成り立つものであることについての理解を深め、生命及び自然を尊重する精神並びに環境の保全に寄与する態度を養うこと。
- 食生活が食にかかわる人々の様々な活動に支えられていることについての理解を深め、勤労を重んずる態度を養うこと。
- 我が国や各地域の優れた伝統的な食文化についての理解を深めること。
- 食料の生産、流通及び消費について、正しい理解に導くこと。
すなわち、義務教育の小学校と中学校で給食が出されている理由は、生徒らの健康維持に留まらず、生徒らが給食を通して、食事に対する理解、食事を通したコミュニケーションの醸成、生命や自然への感謝、生産者への感謝、日本の伝統的食文化への理解、食物の生産・流通・消費サイクルなどを理解し、全人的な大人に成長してほしい、という願いが込められているのである。
学校給食は、義務ではなく、自治体の判断に任されている。自治体が学校給食の導入を決めれば、施設や運営にかかるお金は学校給食法によって自治体が負担することになっている。文部科学省からの補助金や交付金もある。保護者が負担するいわゆる「給食費」は、食材費として使われる。
給食を準備する調理場には、大きく分けて3タイプあり、学校の構内に給食室がある「自校方式(単独調理場方式)」、地域の学校すべての給食を用意する「センター方式・親子方式(共同調理場)」、その他「デリバリー方式」があり、それぞれ地域における最適な方法が選択されている。献立は、必要な栄養素をベースに地産地消の食材や国産食材を考慮して、安全性、調達可能性、予算(給食費)などを総合的に勘案して専門の栄養教職員(栄養教諭・学校栄養職員)が立案している。
かように内容も制度も充実した日本の給食ではあるが、今年に入ってすべての公立学校が新型コロナ感染のリスクに直面するようになってからは、衛生管理の観点から品数の少ない献立や、使い捨ての弁当容器、もしくはパンと牛乳のみの簡易な給食の配布となっているところも多く、子供を持つ家庭では、「栄養バランスが悪い」「量が少ない」「帰宅後の間食が増えた」といった声も上がっている。エアコンなど十分な換気設備がない教室での給食の配給は感染リスクもあり、どの自治体も何とか栄養バランスの整った給食の実施に尽力している。大変な時期であるが、ぜひとも給食の存続につなげて頂きたい。
地域の農産物や国産の食材の消費促進、栄養バランスのとれた献立、配膳におけるチームワーク、残さず食べて食品ロスを削減など、給食が教えてくれることは非常に多い。食材の生産者、栄養教職員、流通の方々を含め、給食制度に従事されているたくさんの方々への感謝も込めて、「ありがとう、給食」と言いたい。
私たち既に社会に出ている大人たちも、今一度、食生活が自然の恩恵の上に成り立つものであることを再認識し、改めて生命と自然、生産者への感謝、食材の流通などに心を馳せ、より一層美味しく食事を味わいたい。
参考文献:学校給食ニュース http://gakkyu-news.net/jp/010/019/post_616.html
引用:学校給食法 (昭和二十九年法律第百六十号)
パンチョス萩原(Soiコラムライター)