新型コロナによって、新興市場国と発展途上国を中心に貧富の格差が拡大してきた。
この20年間というもの、経済的に貧しい国々である新興市場国や発展途上国において、多くの貧富の格差改善努力がなされてきた。産業の発展や制度改革などにより、GDPが伸び、寿命も延びてきた。しかしながら、その成果が新型コロナのパンデミックによる影響で一気に帳消しとなるかもしれない事態になっており、さらに一層貧富の差が開きつつある。
IMF(国際通貨基金)の「世界経済見通し(World Economic Outlook)」の最新版(2020年10月)によれば、コロナ禍により、世界規模で9,000 万人近くの人々が、2020年中に極度の貧困に陥ると予測されている。IMFの今回の予測では、2020年の景気後退については6月の時点で予測したものに比べていくぶん緩やかになっているが、依然深刻であることに変わりないと評価している。主要先進国における第2四半期のGDP実績値も大きくマイナスの結果であったことにも起因した予測である。
新型コロナのパンデミックは、先進国よりも新興市場国や発展途上国の経済により大きな影響を及ぼす。人々の単位では、感染拡大防止措置によって一番影響を受けるのは、脆弱な労働者と女性である。たとえパンデミックが発生しても在宅勤務さえできればどうにか会社の活動をしていくことが可能だが、現場作業などの低所得労働者が就いている仕事は、在宅勤務をすることが困難である。そのためパンデミックに伴って仕事を失う可能性が高い。言い換えれば、高所得者層の労働者は在宅勤務などで雇用は安定されるケースが多い。
IMFは、106か国についてコロナ禍にある2020年の所得分配の集約尺度(ジニ係数)と、その変化率を計算している。それによると、ジニ係数が高いほど格差が大きく人口全体の所得に占める高所得層の所得の割合が大きくなるのだが、その分析によれば、新興市場国と発展途上国でジニ係数の平均が42.7に上昇し、リーマンショックが起きた2008年の水準に並ぶことが示された。
貧富の格差がさらに拡大すれば、ますます経済的に貧しい失業者とその家族が適切な医療や教育も受けられなくなる。さらに十分な栄養のとれる食事やコロナのワクチンも手に入れることが困難となり、生活自体が困窮してしまうばかりか、最悪の場合生きていくのも大変な状況になる。早急に失業保険の受給資格の緩和や金融緩和措置などによる資金的支援などを新興市場国や発展途上国に講じてゆく必要がある。
世界に目を向けなくとも、日本国内においてコロナ禍がもたらしている失業の状況は深刻だ。総務省が10月にまとめた8月の完全失業率は3%、206万人を超えた。うち、39万人もの人が会社や勤め先の都合による失職である。中でも宿泊・飲食サービス業の落ち込みが著しい。また、生活に困った外国人労働者たちの家畜窃盗事件も起きている。
日本、世界において、ますます経済的格差が拡がるリスクが足元にある中で、「誰一人も取り残さない」持続可能な対策を早急に各国が連携して実施していく必要がある。
パンチョス萩原(Soiコラムライター)
参照・出典:
IMF(国際通貨基金)
日本経済新聞 2020年10月2日記事
「完全失業率3.0%に悪化、求人倍率1.04倍に低下 8月統計」より