菅内閣が発足し、もうじき2か月になろうとしている。積極的に行政改革を行なう姿勢が多くの人々に評価されているが、確実にこれまでの内閣より一歩踏み込んだのは、10月26日に菅首相が行なった所信表明演説中の「2050年までにカーボンニュートラルを実現を目指す脱炭素宣言」だと思う。
来年2021年には政府は次期エネルギー基本計画を作成する予定だが、その中ではこの「脱炭素宣言」を受けて、必然的に 「太陽光」や「風力」などによる再生可能エネルギーを主力電源としていく政策をとるに違いない。
「脱炭素」を進めるためには、言うまでもなく石炭や化石燃料などによる電力エネルギー供給を再生可能エネルギーに変えていかなければならないが、現在、ガソリンや石油由来の燃料をメインに消費している側も代替品に変更していかなればならない。具体的には自動車・トラックや航空機の燃料を電気や水素などに変えていく必要がある。道路や空で排出される温室効果ガスが減少すれば、確実に都市の大気汚染も減り、美味しい空気が増えるはずだ。
この点、ヨーロッパは一歩も二歩も進んでいるように見える。2019年12月、欧州委員会は気候変動の対策として「欧州グリーンディール」を発表した。2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「クライメイト・ニュートラル」を 「雇用を創出しながら」実施していくことを第一の目標に掲げている。平たく言えば、「欧州グリーンディール」は、今後10年ごとにヨーロッパとして喫緊の課題である地球温暖化に対してどのような具体的な対策をしていくか、という戦略であり、社会変革と経済変革を伴いつつ脱炭素社会を実現しようというゴールを持つ。
欧州委員会の「欧州グリーンディール」政策サイトを拝見すると、非常に細かいレベルまでの数値目標を伴う行動計画が記載されており、 クリーンで循環型経済に移行することや、 生物多様性を回復しつつ汚染を削減すること、環境に優しい技術への投資などは、日本が今後行動していく内容において大いに参考になる。
さらに、日本が見習うお手本となる動きとしては、「EUタクソノミー」がある。
「EUタクソノミー」とは、簡単に言うとパリ協定とSDGsの目標を確実に達成するための持続可能な金融ならびに金融政策のことだ。「欧州グリーンディール」では「金融そのものを変える」ことを掲げるが、金融の対象となる企業・産業の変革を求めているのみにとどまる。「EUタクソノミー」は、その金融戦略の変革の具体的な手段であると解釈できる。
実際に「EUタクソノミー」が行なう具体策は、SDGsの目標達成に支援を必要とすべき「グリーンな産業と業種」を分類することである。これによって、投資家の資金と企業の設備投資を「脱炭素化」に集中させる金融戦略が機能することになり、厳正な適格基準を数値化することで、見せかけ(いわゆるグリーンウォッシュ)だけの産業や業種を排除できる。
例えば、 「EUタクソノミー」では、気候変動の緩和と適応、水資源、サーキュラー・エコノミー、公害防止、生物多様性などの環境目的に対し、いずれかに貢献するだけでは、「グリーンである」とは認定されず、業種別の適格基準値(閾値 いきち)をクリアしなければならず、さらに人権・労働課題を含む「ミニマム・セーフガード」に準拠すべきことが明文化されている。さすが「欧州グリーンディール」よりも数年早く構想が始まっただけあって、目標がきめ細かい。
今後10年間、すなわち2030年までに 気候変動の課題解決に対するアクションプランはとても多い。しかしながら、これは決してヨーロッパだけの話ではなく、経済的にも政治的にもパートナーシップを組んでいる日本においても同等の水準で活動していくことが求められることになると思う。
日本の脱炭素社会実現のためにも、私たちもヨーロッパのグリーン政策について、もっともっと学び、今後どのように暮らしと社会を変革していくかともに考えていこう。
パンチョス萩原(Soiコラムライター)
参照
欧州委員会 EU タクソノミー
A European Green Deal
https://ec.europa.eu/info/strategy/priorities-2019-2024/european-green-deal_en