この頃は深く考えることもなくなったが、この15年間、会社は何回か変わったものの、基本的に単身赴任暮らしである。もっぱら食事は外食であったが、最近のコロナ禍では生鮮食品や惣菜を買ってきて、アパートで食べることがほとんどである。今週は何を作って食べようか?と日曜日の午後にその週の献立プランを立て、買い物リストを片手にスーパーマーケットに出向くのが現在の私のライフワークとなっている。買い物リストに載っている食材も値段を見たとたんに買う勇気がなくなったり、予定にはなかった特売品の誘惑もあって、買い物途中に戦略を変えることも多い。そんな巣ごもり消費者の一人である私にとって、惣菜コーナーは本当にありがたい。いかにポテサラ論争のような議論が起きようとも、国内の惣菜市場規模は10兆3000億円ほどにもなっている。個々のニーズに合わせて惣菜を上手に購入する人たちがウィズコロナ環境下でさらに増えている。
それにしても、新型コロナは日本経済も人の生活もガラリと変えてしまった。
来週8月17日(月)に内閣府は4~6月期の物価変動を除いた実質の国内総生産(GDP)を速報で発表するが、おおかたの民間シンクタンクは、リーマン・ショック時を上回る低い数値を予想している。しかし、緊急事態宣言後の自粛による経済停滞から、著しく業績が悪化している多くの上場企業の中で、逆に急成長と遂げている会社も垣間見える。ステイホームやソーシャルディスタンスが追い風となって売り上げが伸びているゲーム、ネット通販、動画配信などの企業だ。今や「巣ごもり銘柄」と呼ばれ、上昇ランキングなどで投資家を沸かせている。
しかし、そんな巣ごもり銘柄を尻目に、殊更に市場から高い評価を受け、安定的な成長を遂げている会社がある。株式会社エフピコ(FP Corporation)だ。
株式会社エフピコは、ポリスチレンペーパーおよびその他の合成樹脂製簡易食品容器の製造・販売、並びに関連包装資材等の販売、簡単に言えば、スーパーの肉や魚、惣菜などの食品トレーやお寿司・弁当などのプラスチック容器を製造・販売する会社だ。本社は広島県福山市と東京都新宿区に2つの本社を持ち、現在の従業員数は885名、関連子会社を含めたグループ全体の従業員数は4484名である。国内ではおよそ100社が市場参入する食品トレー業界の中で、ダントツのシェア30%を誇る。巣ごもり需要が追い風となって、2021年3月期のグループ連結純利益は前期比5%増の112億円と創業以来の業績を予想する。 「エフピコ」という社名は、昭和37年(1962年)に広島県福山市で創業した当時の「福山パール紙工株式会社 Fukuyama Pearl Co., Ltd」の英語名のイニシャルからきている。
地方の小さな会社からスタートし、食品トレー業界では後発メーカーであったにも関わらず、どのようにして他の追従を許さない会社へと変貌を遂げたのか? 私なりの分析をしてみたい。
最初の強みは、トータルコストを最適化する一貫したSCM(サプライチェーンマネジメント)システムである。エフピコでは全国9つの営業所、19の生産工場拠点、3つのリサイクル工場を有機的に結ぶイントラネットを充実させ、需要予測、販売計画、生産計画、金型計画、物流計画、在庫計画を一元管理している。膨大な数に及ぶ全国のスーパーマーケットや飲食店がいつどれだけ食品トレーやプラスチック容器を必要としているかを予測し、スーパーや飲食店に納期までに届く時間を逆算して生産をするのは極めて困難なことであり、普通なら安全を見て、どうしても無駄な在庫まで作りすぎてしまう。ところがエフピコは、強靭なSCMシステムを駆使して最適な供給体制を敷いている。また、コスト削減効果の大きい需要地生産を拡大し、納品先への効率的な配送を可能することによって流通コストの最適化も果たしている。早い話、東京近郊のスーパーへの製品供給はなるべく近くの工場でつくるというわけだ。私も現在、プラスチック射出成型で製造する自動車部品工場でサプライチェーンを担当していてエフピコのSCMシステムがどのような構造なのかは理解できるつもりだ。しかし現場では、トレーを製造するために必要な金型はトレーの数だけ準備しなければならないので、このチャレンジが相当大変なものであることは想像に難くない。
2つ目の強みは、製品における発想の豊かさだ。私が小さかった頃は、お店で売っているお寿司やお弁当のプラスチック容器には何の模様もついていなかったが、いつからか高級な和柄がプリントされた容器となった。今では当たり前のこれらカラートレーは、エフピコが日本人の食文化に食器にこだわることに注目して開発した製品である。あたかも高級な漆塗り食器のような柄のトレーでお寿司弁当がスーパーで売られているので、トレーのままでもお寿司がとても美味しい。年々トレーの大きさも千差万別になっているが、その声に応えるためにエフピコでは年間2000以上の新製品を開発しており、広島県福山市の総合研究所をベースに日夜研究を怠らない。
3つ目の強みは製品のリサイクルである。食品トレーやレンジで温めることができるプラスチック容器の主たる原料は、ポリプロピレンやポリエチレンで、もともとは石油から作られるため、原油価格の変動に影響を受ける。エフピコは、時代がリサイクルによる持続可能な社会や環境問題の重要さを論じる以前の1980年代に、既に食品トレーやプラスチック容器の回収およびリサイクルという問題に取り組んでいた。環境問題、特にCO2削減に会社として貢献すべく、使用済みのトレーの回収を1980年から始め、回収したトレーをリサイクル工場で再加工し、「エコトレー」という登録商標でも知られる再生プラスチックを使用したエコな製品を販売してきたのである。 消費者からの使用済みトレーの回収は、30年ほど前からスーパーマーケットに専用の回収ボックスを置いて開始した。現在この回収ボックスは日本全国のおよそ9200箇所のスーパーマーケットに置かれている。この使用済みトレーや容器の再利用に、エフピコは「4者一体」のリサイクルシステムを提唱している。4者とは消費者・スーパーマーケット、包装問屋、エフピコ(再利用生産者)のことだ。 また食品トレー以外の製品リサイクルにも力をいれている。2017年10月には157億円をかけて、使用済みペットボトルから食品容器を作る工場を茨城県八千代町に建設している。いまやエフピコの再生食品トレーの比率は全製品の44%となっている。
最後の強みは、ESGのソーシャルな課題に対する強い取り組みだ。エフピコは障がい者雇用に特に力を入れており、2020年の現在、全社員のうち、13.3%を占める障がい者の方々が、製品製造部門とリサイクル事業の部門で仕事をしている。
エフピコの大きな魅力は、顧客への供給責任、商品開発、リサイクルによる再生プラスチック利用や障がい者雇用といった独自のESG活動など枚挙に暇(いとま)がない。今後はさらに市場からは熱い視線が注がれると思う。コロナ禍で世界的にも生鮮食品向けの容器需要が急増している。
意外なことに海外へ進出する気はない、という。知れば知るほど、この会社の経営姿勢、経営者の考えに魅力を感じる。
エフピコのESG: https://www.fpco.jp/esg.html
パンチョス萩原