社会を支えるもの 【SDGs 職業】

   人が職業を選ぶとき、世の中にある膨大な数の職種の中から、自分の能力や適性、興味、さらには報酬や将来性などによって、自分にとって一番と思う仕事を選択するのが一般的だ。私も含め、多くの人たちは、就職するにせよ、自営や起業するにせよ、「自分らしく生きることができる仕事」を選ぶ。そのために学校で必要な学習や訓練を行ない、就職活動や開業準備を行ない、やがて希望の職種に就くことができればとても幸せなことだ。

   自分に合った職業を探す際によくあることとして、人はたくさんの特性や価値観を持っているために、やりたい仕事や勤めたい会社を一つに絞るのが難しい、ということがある。なので、良かれと思って希望する会社に就職しても、あとあと「これがやりたかったのか?」と疑問を持つようになったり、また、頑張って仕事を続けていても、今度は職場での人間関係や与えられた仕事に対する自分の能力や適性に対する悩みや、経済的な不安などが湧いてきたりして、職場に行くのが辛くなってしまうケースも本当に多い。反対に、周囲から実力が高く評価されて出世をしたのにも関わらず、「自分はただ運が良かっただけで、本当はこんなポジションになるほど才能も実力もない。いつか化けの皮が剥がれて人々から認められなくなる日がくるのではないだろうか。自分は人を騙しているのではないだろうか」などと不安になり、自己を過小評価してしまうインポスター(詐欺師)感情にとらわれてしまい、出世したことが大きなストレスになる人々も中にはいる。私たちはいかなる時にも多くの悩みや不安と隣り合わせで働いているのだ。

   今の時代は自分に合わない会社にずっと勤めるよりも、思い切って転職をしたり会社を起業したりする人々も特に珍しいことではなくなってきたが、どんな時でも「常に自分らしく生きることができる仕事をしたい」という思いが根底にある。政府や企業が推進している「働き方改革」は誰もが最も働きやすく、平等に楽しく働くことができる制度や環境にしていこう、という行動であるが、「何が最も自分らしく生きることができる仕事」なのかを定義し、いかに獲得していくかは、各個人の意思と行動に委ねられていることは間違いない。

   自分の力で「天職」を探すのが困難な場合、本当にその人にぴったりと合う職業に出会えるように、現在では職業コンサルタントや就職あっせん会社、ハローワーク、ヘッドハンターなどの職業支援をしてくれる会社が多数存在している。初めて就職する場合だけでなく、転職する時にもこれらサービスはとても役に立つ。しかしながら、どんな場合でも自分に一番合った会社や職種を探す際のキャリアガイダンスでは、冒頭に書いたような、その人の潜在的な能力(職業適性)、専門知識・技術・技能、獲得している教育や訓練、性格や価値観などの個人的特性、生活活動(趣味や余暇の過ごし方)、そして希望する組織や報酬体系、地域条件などをまず確認していく作業があり、その分析結果によって職業支援する側ではその人に一番ふさわしいと思われる職種や会社を紹介するしくみだ。転職に対する考え方はいろいろあるだろうが、より人生を豊かにするならば大いにチャレンジするのは良いと個人的に思う。また転職支援サービスを受けている中では、自分の性格や適性などを再発見することもある。

   人々が自分にベストフィットした職業に就きたいと思う中で、日本の労働市場を見てみると、今年はコロナ禍による営業自粛や休業要請によって経済・社会活動が大幅に停滞しており、雇用情勢が急激に悪化している。厚生労働省が公表した2020年5月の有効求人倍率(季節調整値)も、1.20倍と5カ月連続で低下している厳しい現実はある。だが、それでも一人の求職者に対し、企業からの求人数が1.2件あるので、欧米に比べると日本の失業率はこの7月でも2.9%にとどまっている(総務省統計局 労働力調査2020年7月分結果)のは救いだ。ただ、万が一このままコロナ禍が経済に与える影響が続くとすれば、既に全国で441件にも上るコロナ関連で倒産した企業(破産410件、民事再生法適用31件)と廃業した企業73件(帝国データバンク調査9月10日現在)も今後さらに増えることも予想され、自分らしく生きるためのキャリアに就くことはおろか、就職に困る人々も増えてしまうことも危惧されている。最近のビジネス週刊誌などでは「コロナ大失業時代」やら「コロナ氷河期」などで失業率も6%になり、さらに265万人が職を失う、だとか、倒産しそうな会社ランキングなど、個人的にはあまり読みたくもない見出しで人々の不安を煽るような内容のものまで登場している。

   テレビが伝える連日の感染者数や、低迷している経済状況など、確かに将来的な不安や心配もあるが、コロナ禍は日本のみならず、世界中のすべての国において何としても乗り越えていくべき試練であって、このような状況におかれた社会に暮らす私たちは、自分や家族の健康と安全を確保するためのウィズコロナにふさわしい生活にまず心がけ、自らのキャリアにおいては、前代未聞のコロナという危機の中でも、何とかビジネスチャンスを見出し、精一杯与えられた仕事を全うしていくほかない。今まで以上に大きく視野を広げ、社会的な助け合いや支え合いなど、自らの関わりによって社会が少しでも向上していくための利他的な行動を続けていくことで、厳しい状況を皆で乗り切っていくことが大事である。

   私たちは、多様性の中でそれぞれに合った仕事を見つけ働いている。仕事を通して生計を維持したり、自己実現をしているが、それと同じくらいに、お互いがおのおのの能力を社会のために役立てることで社会は成り立っているのである。これからの社会を支えていくのも、それぞれの役割を持つ私たち一人一人だ。社会をより良いものにしようという時、何かすごく大それたことをする必要はない。明日をどんな社会で暮らしたいのか、自分がどうありたいのか、ということを考え、実直にできることからやることが結局一番大事なことだと思う。決して平坦な毎日ばかりではないが、与えられている仕事にやりがいを持って今日も働く。

びっくりするような好プレイが、勝ちに結びつくことは少ないです。
確実にこなさないといけないプレイを確実にこなせるチームは強いと思います。
” (イチロー)

                                 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)