「仕事にストレスは付きものだ」と言う人は多い。職場の人間関係や与えられた仕事内容、終わりが見えない仕事量、上司からのプレッシャー、顧客からのクレームなど、例を上げだしたらきりがない。これらの心理的なストレス要因(ストレッサー)のほか、エアコンの温度設定、工場の騒音、エレベーター内の混雑などの物理的ストレッサーに加えて、狭い会議室での酸素不足、製造過程で使用する薬品類などの化学的ストレッサーも存在する。 私たちは働いていれば、日々これらの心理的・物理的・科学的なストレッサーのいずれかを必ずといってよいほど経験しているのである。
少し前までは、「職場でのハラスメント」が大きな話題となっていた。日本では厚生労働省がようやく今年1月に「職場のパワーハラスメント防止のための指針(ガイドライン)」を公表し、6月1日に「パワハラ防止法」が制定され、まず大企業に対してパワハラ防止策を講じることを義務付けた(中小企業は2022年4月1日から適用)。法律で規制するということはどれだけパワハラが企業内に横行しているかという裏返しでもある。
ところが、今年に入って、仕事上のストレスでいきなり圏外からトップにランクインしそうな勢いのストレスがある。テレワーク・リモートワークなどにおける心理的なストレスである。いま、多くのテレワーク実施者の人々の中で「燃え尽き症候群(バーンアウト)」が発症している。
テレワークは、主に在宅での仕事であるが、職場に通勤しないことによる交通機関での人との密な接触がなくなることや、仕事が集中してできることで効率や生産性が上がったり、ワークライフバランスも改善され、家族との時間が多く持てたりと、多くのメリットもあるため、コロナ禍の中、新しいスタンダードとして会社の勤務体系に定着しつつある。一方で、自分で勤務時間を管理しなければならないし、メールやZOOMやオンライン会議など、IT環境下での仕事がメインとなることで、なかなかコミュニケーションがうまく行かなくなったりする。
しかしながら、テレワークで強いストレスに感じている人の中には、これまで職場で熱心に仕事に取り組んでいた人々が相当多い。現場で指揮をふるったり、顧客を訪問して新製品を提案したり、海外の拠点を廻って経営指導をしたり、とにかく仕事の出来る人々が、在宅勤務という制約の中で今まで通りの成果を発揮できずに、急に熱意や意欲を失ってしまう―――いわゆる「燃え尽き症候群(バーンアウト)」である。
リモートで仕事をしていて具体的な成果も出しづらいのに、これから昇進はどうなるのか?自分はこのまま成長し続けていけるのだろうか?など、これまで自分を支えていたプライドと誇り、そして仕事に対する向上心やモチベーションがなくなれば、無気力・無感動になる。仕事がどうでもよくなる気持ちになってしまう。そんなストレスや脱力感からよけいに仕事がはかどらなくなったり、オンライン会議でも発言したかと思えばぞんざいなことを参加者に言ってしまったり、という悪循環に陥ってしまうのである。仕事とプライベートの線引きがとても困難なテレワークという環境上、朝なかなか起きれなかったり、食事が不規則になったり、遅くまでダラダラと仕事を続けてしまったりして、結局は私生活も乱れ、体に不調が出てくるのである。
「燃え尽き症候群(バーンアウト)」を防止するためには、まず仕事の時間をきちんと決めること、“バーチャル通勤”として、仕事の前と後に近くを散歩するなどして職場へ出かけたようなスタイルを取り入れてみること、そして、仕事の時間は部屋着からカジュアルで良いから「仕事用」の服に着替えて気持ちを切り替えること、などが効果があるらしい。会社側の対応としても、オンライン会議は必要なものを時間を決めて効率的に「仕事のために」行ない、あくまでも在宅中の社員を「監視」したりするための内容のない会議(例えば、意味なく定例的に仕事の進捗のみを報告し合う会議など)をやめることだ。また、在宅社員にとって、人事の評価も明確しておき、安心して仕事に取り組むことが出来るような整備も必要である。
多くの人々にとって新しい働き方となったテレワーク。実際になさっていらっしゃる方々は、ぜひとも自らの心のケアをまず第一に優先し、心と体共に健康な状態で行なって頂きたい。
パンチョス萩原(Soiコラムライター・産業カウンセラー)