未来都市をみんなの手で 【SDGs 自治体の取組】

   ESGは大手企業を筆頭に、主に企業価値を上げるために本腰を入れて取り組みが始まったが、SDGsに至っては、先日のコラムで紹介した神社仏閣や教育機関も含め、全国津々浦々の自治体でも関心が高まり、多くの活動がなされている。最近は、未だ行ったこともない町々のSDGsの取組事例を読むのが余暇を過ごす楽しみのひとつとなった。   

   内閣府が選ぶ「SDGs未来都市」及び「自治体SDGsモデル事業」の選定も今年2020年で3年目を迎え、今年は77の自治体からの応募に対し、33の「SDGs未来都市」と10の「自治体SDGsモデル事業」が選ばれている。昨年の総応募数は57というから、SDGsに取り組む都道府県、自治体が増えてきている。

   モデル事業に選ばれた多くの市町村は、決して潤沢に予算があったり、知識が豊富であったり、働き手がたくさんいるような恵まれた環境ではない。地域経済の衰退や高齢化、また震災などで過疎化が進んでいる小さな町や村もある。そこにその地域ならではのアイディアで持続可能な地域の発展を考え出しているのである。具体的には、新たなカルチャーや芸術などを創出したり、多世代が交流できるような地域コミュニティの在り方を実現したり、多くの工夫がなされている。

   最先端の産業技術もこうした小さな自治体の再生に大きく寄与していることが選定された自治体の取組を見るとよくわかる。自動運転やスマート技術を高齢者の送迎や介護、医療に役立てたり、クリーンなエネルギー利用による自然破壊の防止や島などの資源の保全、観光イベントや新たな名産品の開発などによる交流人口(観光などで訪れ、地域の経済発展に寄与してくれる人々)を増やすなど、取組を見ているだけでワクワクしてくる。

   こうした自治体の取組に対し、私たちにもできることはいろいろある。それぞれの自治体がどのような活動をしているかを知り、SNS等で紹介したり、ビーチクリーン活動やボランティア活動の募集があればそれに参加してみたり、オンラインでイベントに参加したり、ふるさと納税やクラウドファンディングなどで活動を応援する、などである。私たち自身のSDGsに対する関心も増し、実際に貢献できる機会もできるので、心も豊かになる。

   上記のほか、外務省でも「JAPAN SDGs Action Platform」のサイトで日本政府のSDGsにおける取組とともに、地域の自治体の取組を紹介している。

   皆さんがお住まいの地域でも、きっと何らかのSDGsの取組がされているにちがいない。日本のすべての町々が未来都市に選ばれるようになったら、どんなに素晴らしいことだろうか。

パンチョス萩原(Soiコラムライター)

内閣府HP

2020年SDGs未来都市 (33)

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/teian/2020sdgs_pdf/sdgs_r2futurecity.pdf

2020年 自治体SDGsモデル事業 (10)

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kankyo/teian/2020sdgs_pdf/sdgs_r2model.pdf

外務省 JAPAN SDGs Action Plan

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/effort/index.html

2020年 選ばれた県、市町村一覧

北海道室蘭市・青森県西目屋村・岩手県岩手町・宮城県仙台市、石巻市・山形県鶴岡市、飯豊町・栃木県小山市・群馬県埼玉県春日部市、三郷市、三芳町・千葉県市川市、市原市・東京都豊島区、板橋区・神奈川県川崎市、相模原市、松田町・新潟県、妙高市・石川県金沢市、加賀市、能美市・福井県、勝山市・山梨県長野県大町市、根羽村・岐阜県、岐阜市、高山市・静岡県浜松市、三島市、富士宮市、富士市、掛川市、御殿場市・愛知県岡崎市、春日井市、犬山市、小牧市、知立市・三重県、いなべ市、志摩市・滋賀県湖南市・京都府福知山市、亀岡市、与謝野町・大阪府、大阪市、豊中市、富田林市、門真市・兵庫県明石市、三田市・奈良県田原本町・鳥取県湯梨浜町、北栄町・岡山県倉敷市、総社市・広島県東広島市・徳島県美波町、松茂町・香川県三豊市・愛媛県松山市・高知県土佐町・福岡県宗像市、宮若市・長崎県対馬市・熊本県水俣市、菊池市・熊本県山都町・鹿児島県鹿児島市、和泊町・沖縄県石垣市

デジタル・ディバイド 【SDGs 情報通信技術の活用】

   最近使っていたマウスが壊れたので買い直した。今では当たり前のワイヤレスマウス、それもBluetooth接続のモノを買ったのだが、さて、取扱説明書がついていない。その代わりに包装自体に「紙資源の節約のため、QRコードからダウンロードするか、サイトにアクセスして下さい」、とある。時代は変わったものだ。テレビの応募も、回転ずしやレストランのメニューもいまやQRコードで自分のスマホで行なうことが主流となっている。改めて言うが、時代は変わったのである。

   年配の方に限らず、これまでパソコン・タブレットPCやスマホに全く関心がなかった人や、持っていてもあまり積極的に使わなかったりする人は、これからの時代、それらを駆使している人に比べてかなり情報量に格差ができると言われている。テレワークでのオンライン会議や自動翻訳機能の活用、さらにはスマートスピーカーに話しかけて情報を入手したり、ものを買う人とそういうことを行わない人では仕事の進み方や生活のクオリティが全く異なるものになりつつある。

   この格差のことを「デジタル・ディバイド」という。実際には、このようなスマホなどの情報コミュニケーション手段を駆使している人とそうでない人のような個人の格差や、地域ごとの事情(都市か過疎地か)による基地局やサービスへのアクセス量の格差、ITに莫大な投資が可能な大企業とそれができない中小企業などの企業規模による格差などの「国内ディバイド」や、情報技術や情報教育に富んだ国とそうでない国との格差などの「国際ディバイド」などのタイプに分けられる。いずれにせよ、世界に住む人々のそれぞれのデジタル通信技術の使い方によって(具体的にはインターネットの恩恵の差によって)格差が広がりつつある。

   日本はデジタル化が遅れていると言われるが、政府はそのためにスマホの普及率を増やそうとか、IT技術で最先端を行くべく予算をつぎ込もうとしているのではない。上述の「デジタル・ディバイド」を解消することが、「あらゆる人々が活躍する社会の実現」に直結すると考え、そのためにSDGs推進本部のアクションプランで「情報バリアフリーの推進」というターゲットを独自に打ち出し、誰もが情報コミュニケーション技術(ICT)の恩恵を享受できるよう,高齢者・障がい者に配慮した通信・放送サービス等の開発・提供等を行うための取組を実施しているのである。

   デジタル庁が発足し今後はどうなるかわからないが、現在のところ、省庁ごとに「IT(ハードウェア、ソフトウェア、インフラなどの情報技術)」か、「ICT(例えば医療や教育の現場におけるITを駆使した情報活用など。情報通信技術)」のどちらを使用するかが棲み分けられている。経済産業省は通信技術自体を扱うので「IT」を用い、総務省や文部科学省では情報通信技術や情報通信そのものを扱うのでので「ICT」を使っている。情報通信白書や統計データは総務省の管轄となり、HP上で開示している。

   ICT分野のデジタル化では、昨年4月から文部科学省が新学習指導要領の実施に踏まえ、タブレットを使用した「デジタル教科書」を制度化したり、厚生労働省や介護業界がインターネット回線を利用しての一人暮らしの高齢者や認知症の人々を見守るシステムや健康相談などが進められていたりする。

   「情報通信技術(ICT)を駆使すること」はあらゆる人々が活躍する社会をつくりだすためにとても重要なことであるが、それはデジタルの情報に溢れた「情報化社会」をさらに加速させよう、というものではない。現代は情報を手にできる人にとっては既にこれ以上ないほど生活の中に溢れており、便利で快適なはずの情報化が社会に大きな影を落としている側面もある。

   スマホのゲームなどに膨大な時間を使うスマホ依存やSNSにおける、いわゆる「炎上」などの情報モラル、出会い系サイトや詐欺サイトから被害にあったり、パスワードが漏洩したりする被害も大きな問題となっている。またスマホに至っては人の暮らしぶりも変えた。2018年JR東日本が募集した川柳の最優秀賞作品「スマホ見て まわりの迷惑 見えてない」にあるように、歩きスマホはいまやとても危ない社会現象である。

   スマホやIoTが普及し、いまやたくさんの人・モノがネットワークにつながって手軽に情報の伝達、共有が行える環境で私たちは生きている。ますますデジタル化が進み人々が社会で活躍できる場所が増え、働き方や生活スタイルも大きく変わっていくことだろう。情報モラルの徹底と正しい使い方をすることにより、誰もが情報通信技術の恩恵を受け、より良い社会となることを期待したい。

 

  

パンチョス萩原(Soiコラムライター)

 

 

参照

外務省 デジタル・ディバイド

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/it/dd.html

SDGs推進本部 SDGsアクションプラン2020

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/actionplan2020.pdf

JR東日本 『危険です!歩きスマホ』キャンペーン川柳コンテスト

https://www.jreast.co.jp/press/2018/yokohama/20180807_y01.pdf

神無月と和の精神 【SDGs 伝統】

   10月の和読みは「神無月(かんなづき)」である。全国津々浦々の八百万の神々のほとんどが、島根県出雲市の出雲大社へ会議に出かけてしまうため、こう呼ばれることになったらしいが、反対に出雲の国(島根県)ではたくさんの神様をお迎えするので、「神在月(かみありづき)」と呼ばれている。

   神々を迎えるために、夕刻から御神火が焚かれ、神々の先導役となる龍蛇神が海に向かって配置される。高張提灯(たかはりぢょうちん)が並び奏楽が奏でられる中、参拝者が続き、浜から出雲大社への「神迎の道」を延々と行列が続く。荘厳な神迎神事(かみむかえしんじ)の解説は、出雲観光ガイドのHPにあるのでそちらをご覧いただきたい。(https://www.izumo-kankou.gr.jp/6404

   コロナ禍の中、今年の出雲大社における神々の集まりがソーシャルディスタンスを保ちつつ行なわれるのか定かでないが、旧暦10月10日~18日(現在の暦では11月)に亘って開催される会議のアジェンダは、出雲大社が日本における縁結びの神々の総本山として、まずは誰と誰を結婚させようかなどの人の縁(えん)や人の命について、そのほか迎える年の天候、農作物や酒の出来など、多岐に亘るらしい。今年はぜひともコロナ収束についてもお話して頂けたらと思う。   

   全国から神々が出雲大社へ行かれる一方で、各地方に留守番をしている神々もおいでになる。

   七福神の中で唯一の日本古来の神様であり、商売繁盛、農業・漁業などの神様の「えびす様」は留守番役として残る。なので、この時期には留守番をしているえびす様にお参りしてご利益を願うという祭事の「えびす講」が各地のえびす様ゆかりの地で開催される。商売繁盛、大漁祈願、五穀豊穣など内容は各地でさまざまであるが、「えべっさん」として親しまれている関西では「福笹(ふくざさ)」という、竹の枝に縁起物を飾り付けたものを毎年買い替えるのが習わしとして有名である。

   東京の日本橋ではえびす講として400年もの歴史を持ち、いまや秋の風物詩ともなった「べったら市」が毎年10月19日と20日に開催されるが、残念ながら今年はコロナの影響で中止となってしまった。

   神社仏閣における神事や各地で開催される祭りは、伝統行事として日本の生活に溶け込み、多くの人々の心を癒しているのと同時に伝統技術や無形文化財としての芸術の継承、建築技術や現地の産業発展にも寄与している。昨今では神社などのSDGsへの取組も紹介されており、福島県耶麻郡猪苗代町の陸奥会津藩初代藩主・保科正之を祀(まつ)る「土津神社(はにつじんじゃ)」は、神社ならではのSDGsへの取組を紹介している(土津神社HP https://hanitsujinja.jp/sdgs/

   京都でも日本伝統文化や芸術にSDGsを取組んでいる例がある。私が一時期日本画を学ばせて頂いた京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)に昨年4月にSDGs推進室が設立されたことを大学の機関紙「瓜生通信」のHPから知った。SDGs推進室長は、京都府八幡市に位置し、2016年に本殿など10棟と附棟札(つけたりむなふだ)3枚が国宝に指定された石清水八幡宮の権宮司である田中朋清氏である。京都で芸術を学ぶ学生をはじめ、古来からの日本の伝統の再発見や、日本にある人生観や和の精神が国連のSDGs17目標における社会的問題の解決の一助になることを伝えている。

   1000年以上にわたり持続可能な発展を遂げてきた日本の神社やお寺の在り方は、宗教という枠を超えてSDGsの社会問題の解決で世界的な注目も受けている。食物の大切さを説く精進料理や人のこころとしての茶道、地域への教育や地球環境に優しい生活スタイルなど世界の人々が日本から学ぶものも多い。   

 

   ぜひ、この週末にお近くの神社仏閣へ訪れたり、日本の伝統行事に触れてみてはいかがだろうか。

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)

 

参照・出典

京都芸術大学 瓜生通信 一人ひとりが「SDGs」にどう取り組むか?―SDGs推進室 田中室長✕在学生 特別鼎談

https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/516

ゼロ・ハンガーに向けて 【SDGs 飢餓をなくそう】

   今日10月16日は、国連の定めた記念日「世界食糧デー」である。

   日本は世界でも有数の食糧輸入国である。農林水産省の品目別貿易実績や日本の食糧事情に関する資料を見ると、豚肉、牛肉、鶏肉、とうもろこし、大豆、海産物などの普段食卓で食しているほとんどの食品を、アメリカ、オーストラリア、中国、東南アジア、南米、アフリカ諸国などの国々からの輸入に依存している。裏を返せば日本の食品自給率は38%と、先進国の中では一番低い。

   蕎麦屋で天ぷらそばを食べる人は多いが、この日本を代表する和食である天ぷらそば一杯のうち、純日本製の食品は22%程度であることを知る人は少ないであろう。いまやエビはベトナム産、小麦粉は中国産がほとんどである。いまや私たち日本人の和食も、実に世界における食糧事情と密接な関わりを持っているのである。

   私たちの食卓に並ぶ食品は、世界の国々から遠路はるばる運ばれている。生産や加工、物流に携わる数えきれない人々の営みや、食に供される動植物の命に至るまで、「世界食糧デー」の今日、改めて食に対する感謝と、世界の食糧事情の現状に思いを馳せる意義は深い。

   「世界食糧デー」は、誰一人も取り残されることなく、人類に平等に与えられている最も重要かつ基本的人権のひとつの「食料への権利」を実現するという目標のために定められた。SDGsで言えば、目標2の「ゼロ・ハンガー(飢餓をなくそう)」である。2030年までに、すべての人々が安全で栄養価が高く十分な食料を確実に入手できるようにすること、そしてあらゆる形態の栄養失調を根絶することに国連加盟国が課題解決に向けた取り組みをしている。

   国連食糧農業機関(FAO)の2020年最新データによれば、世界の穀物生産量は毎年26億トン以上であり、世界中すべての人が十分に食べられるだけの食料は生産・備蓄されていると報告されている。にもかかわらず、現在、世界では約6億9000万人、11人に1人が慢性的な栄養不足に陥り、世界人口の8.9 %が飢餓状態にある。さらにこの数字をアフリカ諸国だけで見た場合、実に5人に1人という非常に深刻な数字に変わる。

   飢餓を地域別に見ると、人数ではアジアが3億8100万人で断トツに高い。アフリカでも人口に飢餓状態にある人々の占める割合が19.1%と深刻だ。また、飢餓までには至らないにしても、安全で栄養価の高い十分な食料を定期的に摂取することができずに深刻または中程度の食料不安の中にいる人々は全世界に20億人ほどいる。こちらは全世界の総人口で見ると3~4人に1人という数字となる。ちなみに「飢餓」の定義は、「長期間にわたり十分に食べられず、栄養不足となり、生存と社会的な生活が困難になっている状態」であり、「栄養不足」の定義は、「十分な食料、すなわち、健康的で活動的な生活を送るために十分な食物エネルギー量を継続的に入手することができないこと」である(国連食糧農業機関(FAO))。

   こうした食糧問題の背景には、富める国と貧しい国との著しい格差や構造的な問題もあるが、昨今の気候変動による極貧国での不作や不漁、また肉食が増えることによって、食糧として供給されるべき穀物が食肉用の家畜へのエサとなったりするなどもある。課題が多岐に渡っているために抜本的な対策を立てることは容易ではない。2030年の目標達成に向け、いまこそ国際間の協力、パートナーシップはかかせないものとなっている。

   私たち一人ひとりにもできることはある。フードロスを出来る限り減らすことだ。

   スーパーで必要以上の食品を買ってしまい、食べずに廃棄したりするようがないこと、作りすぎて捨てたりしないようにすること、一回の食事は食べきれるだけ作り、食べきること。レストランでも食べきれない量を注文しないこと、などである。世界中の飢餓をなくすための行動には、そのような私たちの生活における心がけが大切なのである。

 

パンチョス萩原(Soiコラムライター)

 

参考・出典

農林水産省 知ってる?日本の食料事情~日本の食料自給率・食料自給力と食料安全保障~

https://www.maff.go.jp/kanto/kihon/kikaku/kihonkeikaku/pdf/zen27.pdf

国連食糧農業機関(FAO) 食料不安の評価 それぞれの数値と目的

http://www.fao.org/3/cb0165ja/cb0165ja.pdf

ハンガー・フリー・ワールド(HFW) 世界の食料問題HP

加速するデジタル化 【SDGs 持続可能な産業の発展・イノベーション】

   第5世代移動通信システム、いわゆる「5G」が iPhone12の市場投入によって、日本でも本格化の様相を帯びてきた。通信速度が飛躍的に早まることで、4K動画ストリーミング視聴などのエンターテインメントのほか、クルマの自動運転システムや、IoTや医療分野などの幅広い分野でこれまでできなかったことが可能になっていく。

   しかしながら、日本はデジタル化が遅れていると言われている。スイスのビジネススクール「IMD」の研究所である「IMD世界競争力センター」が、世界主要国63ヶ国・地域を対象に、デジタル競争力を分析・評価する「世界デジタル競争力ランキング」では63ヵ国中23位だった(2019年)。インフラストラクチャー、電子政府、IoT、電子マネーなど、先端技術としては優れている日本であるが、デジタル化の普及が進んでいないのが現状だ。ようやく菅内閣において「デジタル庁」が発足し、IT行政の一元化を目指し始めた段階である。

   世界的に見れば、デジタル化の最先端はGAFAに代表されるデジタル大国アメリカである。しかしデジタル化された行政のサービスは、デンマークやスウェーデンなどの北欧国の方が上を行く。デンマークでは国民識別番号(CPR番号)や企業番号(CVR番号)に紐づいた電子署名による電子認証が義務化されており、すべての公的サービスや公共性の高いサービス銀行などで利用されるほか、ログイン時に電子認証が必要となる。また、公共機関からの連絡を電子的に受け取る電子私書箱として、国民全員に「Digital Post」が割り振られていて、政府からの各種連絡、年金や給与明細、医療機関からの定期検診・検診結果、保育施設や学校に関する地方自治体からの連絡、警察からの連絡などをメール形式で受け取る。もはや地方公共団体や国からの書類は存在していない。

   新興国におけるデジタル化も著しいペースで進んでいる。ASEAN諸国では大都市における交通事情から、「Gojek」などのデジタル企業がオンライン配車、輸送・配達、フードデリバリー、電子決済までの多角的なサービスが発達している。また、レストランもQRコードでメニューを読み取り、注文と電子決済をするため、ユーザーはスマホのアプリからサービスを利用する。

   次にアフリカに着目してみると、現在、アフリカにおいても、いわゆるリープフロッグ型(既存の社会インフラが整備されていない新興国において、新しいサービス等が先進国が歩んできた技術進展を飛び越えて一気に広まること)の発展によるイノベーションの潮流が生まれている。すなわち、先進国が固定電話のために電話線を引いたり、LAN回線などの有線におけるインターネット環境の整備を通り越して、一気にWi-Fiや携帯電話の普及となっているのである。さらに欧州で利用されていた2Gの携帯端末が中古端末としてアフリカに大量に流入し、安価で流通したことこれにより爆発的に携帯電話が普及する理由の一つとなっている。インターネットに接続できる人々が増えたことで、都会から離れたへき地の村々でも教育を受けることが可能となった。これは特に女性の社会進出にもつながる。

   ヘルスケア分野や物流でも格段の進歩がデジタル化によってもたらされている。ナイジェリアのLifeBank が、病院の輸血や医療物資不足や交通インフラが十分に整備されていないため重要医薬品が届けられないために命を救うことができてない現状を解決すべく、スマホのアプリを活用して病院に、輸血用の血液等の重要医薬品を配送するビジネスを始めた。ケニアではトラックやバイクを保有する配送業者と、消費財メーカー等をつなぎ、顧客までの効率的な配送を担うシステム・プラットフォームが構築されている。

   そのほかモバイルマネーやデジタルファイナンスや、ドローンを活用しての使った効率的なスマート農業改革は、現地の社会課題を解決すると同時に多くの新規ビジネス企業の雇用を生み出している。かにしていることに加え、経済社会システムの変革をももたらしている。

   デジタル化による変革は、先進国はもちろんのこと、ASEAN諸国、アフリカ諸国にとってもゲームチェンジャーとなり始めた。これは経済成長及び産業化を促進し、貧困を軽減し、人々の生活を改善する機会であり、SDGsの目標9の「持続可能な産業の発展、イノベーション(技術革新)で新しい技術を生み出す」に大きく貢献している。

   日本も高齢化問題や働き方改革などの課題解決のためにも、さらにデジタル化が進むことを期待したい。

 

 

パンチョス萩原(Soi コラムライター)

 

 

参考・出典

経済産業省 世界のデジタル化の加速における新興国との共創を通じた新事業の創出

https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2020/pdf/02-03-04.pdf

JETRO アフリカ最大の産業の農業にデジタル化の動き

https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2020/ccc5e3ac0ecefbc7.html

外務省 アフリカにおけるデジタル化による変革

https://www.mofa.go.jp/files/000510614.pdf

「一杯のコーヒーからできること」 小川珈琲 【SDGs 持続可能な生産者と地球環境の保護】 

   苦味のエッジが効いた濃い目のコーヒーが好きだ。

   私は、京都右京区西京極で60年以上にわたって美味しいコーヒーを追求し続けている「小川珈琲」のファンである。小川珈琲は、妥協しない味わい深いコーヒー作りにこだわると同時に、 地球の自然環境を守る活動や、持続可能な社会を保つ活動にも目を向けている。エシカル消費を出来るだけ増やそうと思っている私にとって、美味しく、地球環境に優しく、生産者思いの経営を続ける小川珈琲のコーヒー豆を買うことは、ささやかなSDGsへの貢献につながる。

   コーヒーは、「コーヒーベルト(またはコーヒーゾーン)」と呼ばれる栽培に適した地帯でほとんどが生産されているが、地理的には赤道を挟んで北緯25度から南緯25度までの一帯をさす。この地域に位置する主要な原産国は、グアテマラ コスタリカ ジャマイカ ブラジル コロンビア ペルーなどの中南米諸国、タンザニア ケニア ルワンダ エチオピアなどのアフリカ諸国、ベトナム インドネシアなどのアジア諸国がある。これらほとんどの国々は  開発途上国であり、 立場の弱い生産者においては国際市場で決められるコーヒー価格を知ることが困難であり、多くの場合、不利な条件で業者に買いたたかれて生産コストを下回る価格で売らざるを得ない状況に追い込まれてしまうこともある。

   コーヒーチェーン店として急成長を遂げたスターバックスが10年ほど前、生産者の利益を搾取する形でコーヒーを調達していることが明るみに出て、多くの人が不買運動をしたことがあった。現在はどうかわからないが、スターバックスの原価構造では、例えばトールサイズのコーヒー330円のうち、コーヒー農家に支払われるのは3~9円で、ほとんどが仲介業者・輸入業者・スターバックスの儲けになっているとのことであった。こんな取引を続けていては、開発途上国はいつまでも先進国経済の犠牲となり、生産や生活に必要な利益を得られず、不安定な生活を余儀なくされてしまう。

   フェアトレード制度はこのような背景から生まれ、公平な取引を原則に「最低価格保証」、「長期的な取引の促進」、「必要に応じた前払いの保証」、「民主的な運営」、「安全な労働環境」、「現代奴隷や児童労働・強制労働の禁止」、「農薬・薬品の使用削減と適正使用」、「土壌・水源・生物多様性の保全」、「遺伝子組み換え品の禁止」などの条件をクリアし、現地の生産農家と自然環境を保護していく取り組みとなっている。小川珈琲は、2004年に国際フェアトレード認証ラベル商品の製造ライセンスを取得した。

   また、小川珈琲は、 2005年に日本で初めて「バードフレンドリー®認証コーヒー」の販売をスタートした。この認証は、 アメリカワシントンD.C.にある世界最大の学術研究機関であるスミソニアン協会が1999年に認証基準を設定したもので、低コスト化を図るため森林を切り開き、収穫を機械で行うコーヒー農園が増えたことによる自然環境破壊による渡り鳥が減り続ける現状を改善する取り組みである(渡り鳥のための森林保護の取組は9月26日の「渡り鳥に想う」のコラムで書かせて頂いているので、そちらもご覧いただければ幸いである)。 「バードフレンドリー®認証コーヒー」 は、防風や直射日光の緩和効果があるシェードグロウン(木陰栽培)による持続可能な農園で作られる。 森の中でゆっくりとコーヒー豆が育つため、品質が大変良い。

   このほか、化学的に合成された農薬や肥料、遺伝子組換えなどに頼らない有機栽培コーヒーを使用し、 2001年には京都工場で「有機JAS認証」を取得している。さらに、インドネシアでは、絶滅危惧種のスマトラオランウータン・タパヌリオランウータンの保全活動を推進している非営利団体「PanEco(パン エコ)」と協働してオランウータンの住む熱帯雨林の生態系と同時に生産者支援に参加している。2017年から販売されている「オランウータンコーヒー」を買うと、一部が現地へ寄付される仕組みとなっている。

   ”コーヒーが出来るまでの長い道のりを語ることにより、大地の恵みのありがたさ、そこに汗して働く人々の姿が感じられると思います。そして、そのつながりがわかれば、守らなければならないものが、見えてくるのではないでしょうか。(原文ママ https://www.oc-ogawa.co.jp/message/)”と、小川珈琲の代表取締役社長である小川 秀明氏はHPの社長あいさつで述べられている。はるか遠い異国の大地で栽培され、海を渡ってやってくるコーヒーであるが、コーヒーの木を育て生豆を摘む人々、運ぶ人々、豆を焙煎する人々、消費者へ販売する人々。一杯のコーヒーには、そのすべての人々の思いが詰まっている。

   香り豊かなコーヒーとともに素敵な時間を過ごしたい。

 

 

パンチョス萩原 (Soi コラムライター)

京都 小川珈琲 SDGs宣言  

https://www.oc-ogawa.co.jp/sdgs/

外務省 SDGs Action Platform 取組事例 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/case/org1.html

東日本コーヒー商工組合  
https://www.ejcra.org/column/ca_68.html

Fly me to the moon 【SDGs 先端技術】

   5~6年前のことだったか、車を運転中にNHKラジオをつけたら「子供電話相談室」をやっていた。ももちゃん、と名乗った4歳の女の子が「どうしてお月さまは、いつも、ももちゃんについてくるの?」と尋ねたところであった。   

   「それでは先生、お願いします」と女性アナウンサーが先生に振ると、「そうか、ももちゃんにお月様がついてくるんだね。それはね、地球と月の距離は38万キロあって、あまりにも離れているもんだから、人が少し動いただけでは自分から見える月の位置は変わらないからだよ。ももちゃんも新幹線に乗るよね? 近くの景色は早く後ろへ流れるけど、遠くの山は動いていないように見えるよね?それと同じなの。わかった?」「う~ん…」。先生の答えは容赦なかった…。

   太陽と月の大きさを比べた場合、太陽の方が月よりも直径にして約400倍大きい。なので、もしも太陽と月が地球から同じ距離にあれば太陽の方が400倍大きく見える。ところが偶然にも地球と太陽の距離は、地球から月までの距離の約400倍なので、地球から見たときの太陽と月の大きさはほとんど同じになるのである。これが皆既日食で太陽が月とぴったり重なってしまう理由だ。また、 地球からはいつも同じ月の表面しか見ることができない。その理由も、地球の重力によって月が一周回る自転周期と 地球を回る公転周期がそれぞれ27.322日と等しくなっているためだ。 地球に住む私たちにとって、月の存在は不思議かつ重要だ。

   人類は、月を太古の昔から畏敬の念を持って崇拝の対象としたり、月の神様を神話に登場させたりしてきた。日本では古事記や日本書紀に、夜を統治する男神として、「月読命(ツクヨミノミコト)」が登場する。エジプト神話ではトト、インド神話ではソーマなどが月の男神で、 ローマ神話のルナ、ギリシャ神話のセレネなどが月の女神である。

   月に関する民話も多く、地球から見える月面が「うさぎ」に見えるところから、インド、中国、メキシコなどの国々でも「月のうさぎ」の話が古代からある。日本には中国の話が伝わったようであるが、不老不死の薬をうさぎが手杵(きね)でせっせと作っている姿が日本では中秋の名月が稲刈りの時期となるため豊穣(ほうじょう)の願いとともに餅つきに変わったらしい。

   そんなロマンチックな月であるが、1969年アポロ計画で人類が初めて月面に着陸して半世紀以上が経ち、時代は月のさらなる研究に乗り出している。

   文部科学省は昨年「国際協力による月探査計画への参画に向けて」という資料を配布し、日本としては諸外国に後れを取っている宇宙開発ではあるが、国際協力に積極的に参画していくことで日本の存在感を増していくという方針を打ち出している。現在、 アメリカ航空宇宙局(NASA)が人類2度目となる月面着陸を目指し、「アルテミス計画」を打ち出した。計画によれば、男女各1人の米国人宇宙飛行士を月面に送り込むことを目指す。

   宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、このアルテミス計画の中で建設される初期型ゲートウェイの組立要素(ミニ居住棟)に、宇宙ステーション「きぼう」等で蓄積した日本の技術である生命環境を制御する熱制御系や空調系の技術・機器(例えば熱制御系ポンプやバッテリー等)を提供することを打ち出した。JAXAはまた、現在開発中の新型補給機(HTV-X)・H3ロケットを用いてゲートウェイへの物資・燃料補給を行うことも計画している。

   最新技術で確認された月に存在する水資源を活用し、2030年までに人類初の有人火星着陸と火星探査のために、ベースキャンプを月の上に構築していく、という人類の次のチャレンジが始まっている。


   ”Fly me to the moon” や “Moon River”、”Moonlight Serenade” など、ムーディーなジャズナンバーを聴きながら秋の澄んだ空に眺める月は味わい深い。冒頭のももちゃんが素敵な大人の女性になる頃には、恋人と一緒に月で開催されるジャズ・コンサートにデートしているかもしれない。

 

 パンチョス萩原 (Soi コラムライター)
 

参照・引用文部科学省  国際協力による月探査計画への参画に向けて https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2019/08/29/1420708_2_1.pdf

月探査情報ステーションHP https://moonstation.jp/

Let’s ゼロ・ウェイスト宣言 【SDGs つかう責任】

   昨年12月に容器包装リサイクル法が改訂され、今年7月からレジ袋の有料化が始まったがエコバッグを持参する人も増え、次第に生活に定着してきた感がある。9月時点のコンビニでの調査では77%の人がレジ袋を不要としている(Ricoh HP)。

   海洋プラスチックごみの撲滅を目的として始まったレジ袋有料化では、植物由来バイオマス素材25%以上のプラスチックレジ袋は無料で配ってよいのであるが、コンビニでは意識向上の観点からこちらも有料である。いずれにせよエコバッグやマイバスケットはスーパーの買い物客に普及してきた。しかしながら、日本で年間に発生する廃プラスチックのごみ900万トンのうち、レジ袋は数%にすぎず、レジ袋の削減効果のみでは海洋プラスチックごみ削減の抜本的な対策にはなっていないが、意識は高まることは間違いない。

   ごみの削減のみならず、「ごみを全く出さない暮らし」を目指した「ゼロ・ウェイスト」運動がいま、世界に拡がりを見せている。

   日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」をしたのは、人口が2000人にも満たない過疎地の徳島県勝浦郡上勝町である。2003年に「2020年までに焼却や埋め立てをせずにごみをゼロにする」ことを目標に掲げ、2016年度には既にリサイクル率81%に達している(日本全体の平均は20%)。他の市町村のように、家庭から出された廃棄物をどう処理するかよりも、そもそもごみを生み出さないような取組みに力を入れており、町のごみ収集車を廃止し、「日比ヶ谷ごみステーション」という名の集積所ですべてのごみを集める。上勝町の住民はみな、ここに自分でごみを持ち込んで13品目45種類に分別する。まだ使えそうなものを循環して利用するリサイクルや再生して利用するリユースの制度を確立している。

   世界でもユニークは取り組みや思い切った判断をする国々がある。

   ブータンでは、「ゼロ・ウェイスト」のユニークな取り組みが行なわれている。毎月2日に「ゼロ・ウェイスト・アワー」を少なくとも1時間設け、あらゆる個人や組織が周辺地域を清掃することにした。ブータンは、2030年までに「廃棄物ゼロ社会」を目指している。

   インドでは、2022年までにすべての使い捨てプラスチック製品を禁止する取り組みが進んでいる。一回ぽっきりしか使わないプラスチックカップ容器、皿、小型ボトル、ストロー、ビニール袋、特定の種類の小袋など、最大6種類の使い捨てプラスチック製品の製造・使用・輸入禁止される予定だ。

   スコットランドでは、毎年使用されている6億9400万本ものペットボトルや空き缶、空き瓶などの道へのポイ捨てを撲滅する目的で、お店で飲み物を買う際に、20ペンス(約30円)のデポジットを支払う制度「デポジット・リターン・スキーム」を開始した。一旦デポジットをお店で払い、飲み終わったらお店やホテルなどの返却場所へ持っていくと20ペンスが戻ってくるという非常にシンプルな制度である。人々のリサイクルに対する意識向上から、ポイ捨てを抑制する効果が期待されている。

   このほか、多くの国や都市が取り組んでいる「ゼロ・ウェイスト」の取組が、“Ideas for Good”のサイトで紹介されているので、そちらをぜひご覧いただきたい(https://ideasforgood.jp/zerowaste-matome/#07

   今後は、量り売りなどの普及やさらなる簡易包装が進み、買い物食品のパッケージや包装ごみが一層減ることも考えられる。また、一般家庭でもごみに対する意識が高まっており、フリマアプリによるリサイクル、DIY、自分で古着をリユースする人々のYoutubeも話題だ。ペットボトルを買わずに水筒を持って行ったり、ウェットティッシュの代わりにおしぼりを使ったり、できそうなことから実行していけば個人の生活レベルでも確実にごみは削減できる。ごみを減らすことは環境問題の解決に留まらず、自治体のごみ処理費用の削減につながる。

   ごみを生み出さない生活を目指し、できることから楽しんで実践していきたい。

 

パンチョス萩原(Soiコラムライター)

 

参照・出典

Green Peace Japan

https://www.greenpeace.org/japan/ 

Chemical and Engineering News (C&EN) India to ban single-use plastics 

by K. V. Venkatasubramanian, special to C&EN SEPTEMBER 6, 2019

https://cen.acs.org/environment/pollution/India-ban-single-use-plastics/97/i35

怒りの本質 【SDGs 感情と脳の働き】

   「追い越されて、つい、かっとなった」 

   「態度に腹が立った」

   「その一言でキレてしまった」

   「怒り」とは、何か原因があって結果として生み出された感情だと考える人々の中で、オーストリア出身の心精神科医・心理学者アルフレッド・アドラーは、目的を果たすために「怒りという感情を生み出して利用しているだけ」と言った。

   相手に自分を認めさせたい、相手を支配したい ――― アドラーの目的論的に解釈すれば、怒りの本質は、利己的な目的を果たし、欲求を満たすための「手段」として、「あえて作り出しているコミュニケーションの方法」となる。脳科学者の中野信子氏によれば、動物が激しい怒りを感じるのは、相手を「攻撃」する時だと言う。脳は「戦うホルモン」であるノルアドレナリンを分泌し、神経を興奮させ、筋肉に効率よく血液を運び、血圧と心拍数を上げ、体を活性化させる。そしてこういった脳の働きによる「怒りのメカニズム」は人間にもそのまま受け継がれているそうだ。怒っている人の顔が急に赤くなったり、声や手が震えたり、興奮のあまり冷静な態度がとれなくなるのも、ノルアドレナリンの濃度が高まっているからなのである。

   一方で人が怒るとき、相手からリベンジされる可能性を予測し、不安や恐怖をつかさどる「扁桃体」という部分も反応する。ノルアドレナリンによる興奮状態とともに、激しい不快感や恐怖を感じる。それが、脳の反応が生み出す「怒っている」という状態だ。

   また、ネット上などでは事件の犯人や失言をした政治家などに「許せない」という感情から怒りを込めた書き込みをする人々がいる。こうした「自分が正しいことをしている」という正義感による制裁行動が発動するとき、承認欲求が充足するために、脳内に快感物質であるドーパミンが放出される。強気な発言をした芸能人への誹謗中傷や、特定の民族に関するヘイトスピーチをする人々をはじめ、平気でゴミを捨てる若者たちにかっとなる年配の人々、新幹線で前に座っている人が一言もなく座席を後ろに倒したりするとキレる人などは、怒ることで快感を覚えており、ドーパミンが一度出始めると理性が働かなくなるため、攻撃中毒になり、止めることが難しくなる。つまり、怒ることをやめられなくなるのである。

   「パワーハラスメント」や「いじめ」などが無くならない理由もこうした快感に通じるものがある。また、お酒が入った席などではアルコールのせいで理性的な判断を行なう脳の「前頭前野」の機能がうまく働かないため口論になってしまうとキレやすくなり、取り返しのつかないことになることが多い。

   「怒り」はたいていの場合、「相手が自分よりも下」という判断を下した時に脳内ホルモンの分泌によって作り出され、目標達成のために利用される感情であるとアドラーや脳科学者は教える。相手が警察車両ならあおり運転などしないのである。

   では、いかにして「怒り」をコントロールしていけば良いのか?

   ちまたに溢れる心理学やメンタルヘルスの書籍や多くの講演でさまざまな方法論が紹介されている。ニューヨークに本部を置くナショナルアンガーマネジメント協会による専門的な研究とその日本支部である一般社団法人日本アンガーマネジメント協会では「怒りの連鎖の断ち切る」という理念のもと、「怒りの感情のピークは6秒なので、その間じっと我慢する」など、具体的に怒りをコントロールするトレーニングなどを教示している。

   SDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」の本質は、「誰一人も取り残さない平等社会の実現と、人の下に人をつくらない行動を」という一言に尽きる。具体的には社会に生きる人々の多様性を認め合い、境遇に共感し合いつつ、共に生きることだ。単なる理想として聞こえてしまうかもしれないが、人々が平等に生きる社会を考えた時、それぞれの立場や役割は違うが、本質的に上司も部下も先輩も後輩も高齢者も若者も、すべてのコミュニケーションにおける人格における優劣性などない。

   「追い越されてかっとしそうになったけど、何か急いでいる事情があるのだろう。どうぞ気を付けて」 

   「態度に腹が立ちそうになったけど、こちらのミスをあえて勇気を出して伝えてくれたのでありがたかった。感謝だ」

   「その一言でキレそうになったけど、同じような一言をしまう自分に気づいた。気を付けよう」

   このとき脳内にはノルアドレナリンではなく幸せホルモンのオキシトシンが放出され、何とも言えない安心感を味わうことができる。

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)

 

参考文献・出典

Kathy Matay, B.A., ABMP / Marina Bluvshtein, Ph.D.

「The Role of Anger and Its Effect on the Family」

http://www.adlerontario.ca/docs/Conference2016/ONSAPresentationOct13.pdf

MASHING UP 「脳が怒りを生み出すメカニズム ――― 脳科学者・中野信子さん (2017.10.20)」

https://www.mashingup.jp/2017/10/065099nobuko_nakano01.html

https://www.mashingup.jp/2017/10/065143nobuko_nakano02.html

一般社団法人 日本アンガーマネジメント協会 https://www.angermanagement.co.jp/

ワービーパーカーが眼鏡越しに見る世界 【SDGs ソーシャルビジネス】

   今日10月10日(土)は「目の愛護デー」だ。目の検診による視覚障害の予防と視力保持、生活習慣病による眼疾患の早期発見と早期治療など、目の衛生に関する注意を喚起し、公衆衛生の向上を図ることを目的としている。厚生労働省をはじめ、製薬会社、眼科と医師会などが多くの講演やイベントを行ない、ネット上でも目のケアについて注意を促している。

   世界保健機関(WHO)は、毎年10月の第二木曜日を「世界視力デー(World Sight Day)」と定めていて、今年は10月8日だった。貧困や医療体制の不備などが原因で予防可能にもかかわらず失明の危機にある視覚や視力に障害を抱えている人々が全世界に10億人いることを再認識することと、そのために世界が協力して行動することを啓蒙する日である。「HopeInSight」という専門サイトで貧困国における治療の様子などをアート感覚なフォトギャラリーで紹介している。

   WHOのデータによると、10億人の視覚障害や失明リスクを伴う目の患いの中で暮らす人々のうち、90%は発展途上国に暮らしている。視力の低下や失明は、日常の生活、個人的な活動、地域社会との交流、学校や仕事の機会、公共サービスへのアクセス能力など、生活のあらゆる側面に大きな長期的な影響を与える。人間年を取れば目が悪くなるのはしかたがないが、貧困の中にあって経済的な保証がない暮らしでは医者にも行けず、白内障、緑内障になってしまう人々も多い。視力が落ちることで生活や仕事もできず、貧困がさらに大きくなる悪循環が起きてしまう。

   現在、重度の視覚障害が原因で十分な仕事や学習ができない人々は6億2400万人ほどいる。せめて自分の目に合った眼鏡さえあれば、公共機関を利用したり自動車も運転でき、仕事や学習の生産性は35%向上し、所得も20%増加することにつながることになる。

   そんな中、2010年にニューヨークで創業した眼鏡販売の「Warby Parker (ワービーパーカー)」は、設立当初から現在に至るまで、そんな発展途上国に暮らす視力障害者へのソーシャル支援活動を行なっている会社だ。「Buy a pair, Giver a pair」という、自社の眼鏡が1つ売れるごとに発展途上国の視力障害を持つ人々が暮らす地域へ無償で眼鏡一つを提供し、かつ、販売ノウハウをレクチャーすることで現地で眼鏡ビジネスを自立化させることができる活動を行ない続けている。会社を通して持続可能なビジネスを提供するというミッションを掲げ、さまざまなビジネスモデルでNGOやNPOと協働し、単なる視覚障害を持つ人々たちへの寄付や支援に終わることなくソーシャルビジネスとして事業を成り立たせている。

   こうした活動を通し、既に途上国の重度視覚障害者らに届けられた眼鏡は100万本を超えている。Warby Parkerは、2015年には、アメリカのメディアFast Companyが選ぶ「世界で最もイノベーティブな50社」において、AppleやGoogleを抑えて、1位の評価を得た。

   Warby Parkerは、従業員たちの多様化も積極的に進めており、「BIPOC(Black(黒人)、 Indigenous(先住民族)、and People of Color(白人以外の人種)」 の人々を積極的に採用・活用・管理職への登用することを10の目標で実現するために「人種平等戦略(Racial Equity Strategy)」を今年発表した。ワービーパーカーの経営者と1900名の従業員たちが「心の眼鏡越しに見る世界」は、どこまでも社会的貢献を追求する自らの姿勢と、掲げる会社ビジョンの実現によってもたらされる世界的な課題の解決である。

   人によって世界の見え方は全然違う。コロナ禍で元気のない社会を支えていこうと始まった「Go To イート」キャンペーンにおいて、社会的な貢献よりも自分の利益優先で制度を悪用する人々もいれば、貧困や人種差別などの不平等さの中で苦しむ人々に共感し、手の届くことから支援をしていく人々もいる。

   世界をどう見るかは視力の強弱には関係ないのである。

 

パンチョス萩原 (Soiコラムライター)

参考・参照HP

国際保健機関 世界視力デー 

https://www.who.int/news-room/events/detail/2020/10/08/default-calendar/world-sight-day-2020

公益財団法人 日本失明予防協会 http://www.shitumeiyobou.or.jp/association

HopeInSight フォトギャラリーhttps://www.flickr.com/photos/iapb/albums/72157714916053913

Warby Parker 「Buy a pair, Giver a pair」

https://www.warbyparker.com/buy-a-pair-give-a-pair

人種平等戦略(Racial Equity Strategy 2020)

https://www.warbyparker.com/assets/pdf/WP-Racial-Equity-Strategy.pdf